異世界の守り人

□疑念
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 マイエラ地方。定期船の船着場にほど近い場所に、陽気な鈴の音が響く。それと同時に、どしどしというでかい足音と共に黄色い巨体が現れた。
 でっぷりと太った白い腹を持つその魔物は、あきらかに竜の眷族である。
「また来た! アリィシア、頼むっ」
「おう!」
 鈴の音を響かせた張本人(というか張魔物)である、巨大なベルに顔を貼り付けたような魔物を相手取っていたエイトは、アリィシアに指示を出した。
 アリィシアは自分の身丈より二倍は大きい竜の魔物の頭上まで飛び上がり、青銀の刃を振り下ろす。
 赤い閃光をまとった刃は、竜の魔物を縦一文字に斬り裂く。魔物が下げていたつぼがぼとりと落ちた。
「さっすかアリィシア! 私も負けてらんないわねっ」
 そう言ってゼシカは皮の鞭を振るった。鎧を着込み、二足歩行をする犬の魔物がそれを受けてよろめく。
 そこを逃さないように、ヤンガスは突っ込んでいった。振るった鉄の斧は鎧の隙間に深々と入り込み、魔物は悲鳴を上げて絶命する。
 エイトはそれとほぼ同時にベルの魔物を鉄の槍で打ち倒した。その後ろでアリィシアが、牛の身体に鳥の頭と退化した翼が生えた魔物を斬り倒す。
 あれだけいた魔物が、気が付けば全て地に伏していた。
「ふぅ……何とか倒せたね」
 エイトは安堵のため息をついた。鞘に剣を戻したアリィシアは、ヤンガスとゼシカに視線を向ける。
「ヤンガスの新しい斧と、ゼシカのおかげかな」
「いやぁ……姉御の剣技や兄貴の槍術には比べものにならないでげす」
「でも、本当びっくりね。錬金術って」
 ゼシカはそう言って、避難していたトロデとミーティアに目を向けた。正確には、彼らの近くにある馬車だが。
 ヤンガスの斧。あれは店で買い求めた物ではなかった。錬金術と呼ばれる技術によって造り出された物である。
 エイトが聞いた金属音。あれは、トロデが出した音だった。
 何をしていたかというと、錬金釜なるものを直していたのだという。
 錬金釜とはトロデーンに代々伝わってきた秘宝の一つで、それを使えば錬金術という技術が使えるのだという。錬金術とは、二つの異なるものを組み合わせて全く違う物を生み出す技術だそうだ。
 後に何かの役に立つのでは、と思い城から持ち出して修理していたそうだ。魔法に詳しいことは知っていたがそんなことまでできるとは、とエイトは舌を巻く。
 試しに薬草を二つ入れてみたところ、上薬草というものができた。トロデが同じく城から持ち出してきたという錬金レシピなるもの(このネーミングにゼシカは料理じゃないんだからとツッコんだ)を見て、鉄の鎌を二つ入れてみた。そしてできたのが鉄の斧である。
「斧は山賊時代から慣れ親しんでいやしたからね。使い勝手がいいでがす!」
 ヤンガスは嬉しそうに笑って背中に斧を背負った。
「あら、エイト。貴方怪我してるじゃない」
「え? あぁこれ」
 ゼシカの指摘に、エイトは自身の右腕を見た。
 大きな、血のにじむ歯型が刻まれている。先程のベルの魔物に噛まれたものだ。
「うわ、痛そう」
「大丈夫だよ、ホイミすれば」
「兄貴、腕貸してくだせぇ」
 ヤンガスが突然そう言った。わけが解らないまま腕を差し出すと、彼は噛み傷に手をかざす。
 すると、彼の手にぽぉ、と光が灯り、みるみる内に傷が癒えていった。
「これって……」
「ホイミだな」
 アリィシアがエイトの言葉を引き継げば、ヤンガスは胸を張った。ゼシカは感心したように唸る。
 新たな仲間も加わり、エイト達は確実に強くなっていた。全員が魔法を使えるようになるほどに。




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