異世界の守り人
□燃える橋
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アリィシアは腕を組み、無言のまま目の前の男を睨み続けている。
目の前の男――マルチェロは、先程と同じ質問を繰り返した。
「それで、おまえ達は何が目的なんだ?」
「だから!」
それに対し、ヤンガスもまた同じ言葉を繰り返す。
「濡れ衣だっつってんだろ!」
「そうよ! 私達はあんたの仲間に頼まれて様子を見に行っただけ!」
ゼシカもまた、目の前の机をばんっ、と叩いて怒鳴った。
二人ががなる中、エイトはずっと黙っていた。
表情は厳しいので、おそらく自分と同じ考えなのだろう。
アリィシア達は、修道院内の尋問室にいた。
あの後、聖堂騎士団員達に囲まれたアリィシア達の前に現れたのは、騎士団長、マルチェロだった。どうやら彼は、襲撃者が自分達だと判断したようである。
それに対し、オディロは否定してくれた。こんな澄んだ目をした者が襲撃者であるはずがないと。
しかし、マルチェロは信じなかったようである。
ある意味当然だが、こちらの言い分も聞かずにただ決めつけてかかるだけの尋問に、アリィシアは早々に抗議することを諦めていた。
「院長の目はごまかせても、私はだまされんぞ。いい加減白状したらどうだ?」
「だーかーら! 濡れ衣だって言ってるでしょうが!」
ゼシカがばんばん机を叩いた。そんな時、部屋のドアがノックされる。
マルチェロが誰何すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「団長殿が俺を呼んだんじゃないんですか?」
「……入れ」
マルチェロが許可すると、部屋に赤い騎士服の青年――ククールが入ってきた。
芝居がかった動作で一礼したククールは、こちらには一瞥もくれずにマルチェロの傍まで移動した。
マルチェロはククールに視線を向け、再びこちらを見る。
「貴様に訊きたいことがある。が、その前に、院長を暗殺しようとした連中を捕らえた」
マルチェロの言葉に、ククールはこちらを見てわざとらしく口笛を吹いた。それを苛立たしげに見、マルチェロは懐からあるものを取り出す。
それは、エイトの荷物袋から取り上げられた、ククールの指環だった。
表情は変えないものの、アリィシアは内心まずいな、と思う。ここで彼が自分達をかばっても、マルチェロは信じないだろう。
むしろ逆効果な気がする。そうしたら、ククールも含めて罪人扱いだ。あの会話を思い出す限り、そうされるのは目に見えている。
しかし、それは幸か不幸か杞憂だったようだ。
ククールは肩を揺らして笑うと、マルチェロから素早く指環を奪い取った。
「よかった! 団長の手に渡っていたとは」
「何?」
「実は酒場に行った時、スリに盗られたんですよ。見付かってよかった」
心底ほっとしたという笑顔のククールに、アリィシアは内心賞賛を送った。
なかなか演技上手である。頭の回転も速いようだ。焦ることなく対処するとは。
横では、エイトがあきれ顔をしているが。ヤンガスとゼシカは真意がくみ取れなかったらしく、大仰に顔をしかめている。
「では、俺はこれで」
「おい、まだ話は終わってないぞ!」
マルチェロの制止を聞かず、ククールは部屋を出ていった。それを忌々しげに見つめた後、マルチェロはこちらに向き直る。
「まぁいい。あいつの処分はいつでもできる。それより」
しかし、またもやノックに遮られてしまった。今度は何だとマルチェロが言うと、辺りをうろついていた魔物を捕らえたとのこと。
嫌な予感がしていると、その魔物が机の上に放り込まれた。
「痛っ。何するんじゃ!」
……嫌な予感、的中。魔物とは、トロデのことだった。
「おお、エイトではないかっ。寂しくなったから探しに来たぞい!」
王、空気を読んでくれっ。
アリィシアは頭を抱え、エイトは顔をひきつらせる。ヤンガスとゼシカは目をそらしていた。
と。マルチェロが低く笑った。
「なるほど。襲撃はこの魔物の命令だな。院長を殺し、勢力拡大を狙ったというわけか。異端者共め」
アリィシアはため息をつかずにはいられなかった。
よくもまぁそこまで考えられるものである。逆に拍手を送りたくなった。
マルチェロはため息に少し反応したようだが、何も言わずに部下に命令した。
「こいつらを牢へ。明日の朝、全員拷問する」
エイト達が息を飲んだ。アリィシアは特に反応もせず、あくびを噛み殺したが。
「明日の夜明けを楽しみにするんだな」
そう言ったマルチェロの笑みは、何より邪悪だった。
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