異世界の守り人

□凍れる炎
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 階段から、派手な音を立てて騎士団員が落ちてくる。壁や段差に何度も身体を打ち付けて落ちてきた彼に、エイトとククールは思わず身を固めた。
「あ、ぐっ……」
「大丈夫ですか!?」
 エイトが片膝を着くと、彼はこちらを見ずに二階へと視線をやった。
「おのれ、あの道化師……」
「喋っちゃ……!」
 エイトは口をつぐんだ。
 団員は、力無く視線を床に落とした。その目は、もはや何も見ていない。
「っ……」
「……行くぞ」
 唇を噛むエイトに、ククールが呻くように声をかける。ぎこちなく頷きを返し、エイトは階段を駆け上がった。
「……気配が強くなった」
 アリィシアがぽつりと呟いた。
「この気配……エ……より……しかし……ラ……」
「……?」
 だが、あまりに小さい声のため、うまく聞き取れない。一体何を言っているのか気になったが、まずは目の前のことだ。
 階段を登り終えた時にまず目に入ったのはオディロと、それをかばうように立つマルチェロだった。
 そしてその目の前に浮かぶ一人の道化師。
「ドルマゲス……!」
 エイトは呻いた。
 ドルマゲスはエイト達に気付いていないのか、杖に魔力を集め、それをマルチェロに向けて放った。マルチェロはそれをレイピアで受け止めるも、はじかれてしまう。
 壁にしたたかに打ち付けられたマルチェロは、その場にぐったり座り込んでしまった。
「っ、兄貴!」
 ククールがはじかれたようにマルチェロに駆け寄った。彼が肩に触れると、マルチェロはククールの手を振り払う。
「命令だっ……騎士団員ククール。院長を連れていけ……!」
「そんなことをさせると思うかい?」
 ドルマゲスが杖を振るった。
 魔力の玉がククールと、再びマルチェロを吹き飛ばす。壁に叩きつけられた二人は、床に倒れ込んだ。
「さぁて……あとはオディロ院長、貴方だけですよ」
 ドルマゲスの濁った目が、明確な殺意を持ってオディロに向けられた。
「くっ……ま、待てっ」
 マルチェロとククールが身体を起こそうとした。それを、オディロが制す。
「心配するな、マルチェロよ」
「い、院長……」
「ククール、おまえもじゃ」
 身体をひきずるククールに、オディロは穏やかな瞳を向けた。
「わしがここで死ぬのが神のご意志なら、わしはそれを受け入れよう。じゃが罪深き子よ、おぬしのような者にわしは殺されん。必ずや神がこの場にいる全員を守ってくださるであろう!」
「ならば、試してみるかな」
 ドルマゲスは杖を振り上げた。それを見たエイト達は身を乗り出そうとする。
 だがエイトは、誰かに突き飛ばされてしまった。
 一体誰だと顔を上げると――

「待て待て待てぃ、ドルマゲス!」

 現れたのは、トロデだった。
「おっさんいつの間に!」
 ヤンガスが飛び上がった。それを意に介さず、トロデはドルマゲスを睨み付ける。
「久しぶりじゃな、ドルマゲス」
「おや。これはこれはトロデ王。なんとも醜い姿に」
「おぬしのせいじゃろうが! よくもわしの城を……戻せ、今すぐ戻せえぇ!」
 ぎゃんぎゃんわめくトロデ。ドルマゲスはそれに対し、にたりと笑った。
 エイトの背筋がぞわりとあわ立つ。身をすくめると同時に、道化師は杖に魔力を込め始めた。
 目線の先には――トロデ。
「陛下!」
 エイトは起き上がり、走り出した。けれど、間に合わない。
 ドルマゲスの投げた杖は、小柄な身体を貫いた。

 トロデをかばった、オディロの身体を。




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