異世界の守り人

□幕間二「キユウとの出会い」
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 ここは比較的平和な町だったはずだ。
 キユウは鉄の爪を付け直しながら思う。
 始まりは、一人の子供だった。最初はただの風邪だと思っていたのになかなか治らず、それどころか同じ症状の人間が次々に出てきた。
 そこでようやくベクセリアの人々は気付く。これはただの風邪ではないと。
 瞬く間に病は伝染していき、ベクセリアは死を待つ町になってしまった。
「こういう時、戦う力なんて役にたたないよな」
 キユウは嘆息した。
 町長の屋敷のテラスから見下ろすベクセリアの町は、どこか要塞めいた印象を受ける。かつては城だったなどという噂を聞いたことがあるが、事実かどうかは判然しない。
 魔物が急激に増えたことを危機に感じた町長に雇われたキユウだが、まさか魔物ではなく病に町が滅ぼされかけるとは思わなかった。
 まだ十代半ばのキユウだが、傭兵として一通りの医療は学んでいる。けれどそれは、戦闘の際にできた傷などを治す方法だ。病を治す方法など知らない。ましてや今回のような不治の病などお手上げである。
「こうなったらセントシュタインまで行って医者を連れてくるか……ん?」
 一人ぶつぶつと唸っていたキユウは、ふと、町の中に入ってくる人影を見付けた。
 一人ではない、二人だ。遠目では顔や性別までは確認できないが、片方は蒼、もう片方は銀の髪のようである。
 しかし運の悪い旅人だ。こんな時期にここに来るなんて。
 不治の病は誰にもわけ隔てなくかかる。実際ハネムーンに来た夫婦の内片方が、現在宿屋でふせっているのだから。
 早く出てもらいたいな、などと思っていると、後ろから声がかけられた。
「キユウ君、少し話があるんだが」
「ん?」
 振り返ってみると、町長が難しい顔でテラスに出ていた。
「……僕にできることですか?」
 無表情でそう返す。別に思考を中断させられて怒っているわけではない。対人の際無愛想なのは、キユウの通常の表情である。
「うむ。実は頼みごとがあってな」
「はぁ……」
「ルーフィンのことなんじゃが」
 またか、とキユウは内心思う。
 ここの嫁姑問題ならぬ婿舅問題は、本当に面倒くさい。




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