異世界の守り人

□不徳の町
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 トロデはご機嫌だった。手綱を持つ手も緩やかなリズムを持って動き、鼻歌まで歌っている。これには、アリィシア達は苦笑するしかなかった。
 かように気色のよい顔――しかし緑の肌では判断しがたい。あくまで雰囲気を受けての印象だ――をしているトロデだが、先ほどまでは地面と同化するのではないかというほど沈み込んでいた。
 というのも、そもそもの理由は自分だけアスカンタ城の馳走を食べられなかったからで。
 しかしその落ち込みようたるや、上の立場にいる者には、少なくともアリィシアには見えなかった。
 準備のいいエイトが城からもらってきた持ち運び用の料理――焼きたてパンにローストビーフ、シーフードサラダに苺のムースなど――を渡せば、幾らか回復したが。
「しかし町に入れず、宿にも泊まれぬというのは、何とも虚しいのぉ」
 同じく持ち帰ったワインをちびちび飲みながら、トロデは嘆息した。
「一度でいいから人目を気にせず酒を飲んで、温かいベッドで眠りたいわい」
 ――で、現在。
 トロデの願いを叶えるべく、一行は道無き道を突き進んでいた。
 目指すは、なんとヤンガスの故郷である。
 パルミド。アスカンタ城から見て、ほぼ南に位置する町である。
 一応アスカンタ領ということになっているが、主城から遠く離れているせいか、無法者の町になっているらしい。そんな町だからか町長は存在せず、ほとんど自治区の体(てい)なのだそうだ。それゆえに、誰も他人の様子など気にしないらしい。
 それに、気になる情報もあった。
 ヤンガスの話では、パルミドには素晴らしく腕のいい情報屋がいると言う。彼ならば、途絶えたドルマゲスの足取りを知っているかもしれない。
 トロデの願いが叶えられ、更にはドルマゲスの足取りもつかめるならば、彼らにとってこれ以上のことはない。
 ただ、アリィシアは少し不安だった。
 無法者の地。それはあまりに危険ではないか。法無き人間ほど、救いがたい存在は無い――と、元天使であるアリィシアは思うのである。実際そんな人間を、彼女は何度も目の当たりにしているのだから。
 そしてその不安は、的中することになる。
 しかしこの時はまだ、不安は不安でしかなく、現実味を帯びていない。ゆえにアリィシアは、それを見逃してしまった。
 不安を感じる時点で警戒すべきであると、彼女は身にしみて解っていたはずなのに。




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