書庫V
□剣の覚悟
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山本は時雨金時の剣腹を見つめていた。
未来での最終決戦に向けての修行に使っている森の中。
日は落ちていて、辺りは闇夜に満ちている。
月も星も出ていない中で、目の前のたき火だけが唯一の光だった。
「さっきから何してんだぁ?」
たき火の前に座っていたスクアーロが不思議そうな声を上げた。
同じようにたき火の前に座っていた山本は顔を上げる。
向い側のスクアーロに向って、首を傾げた。
「いやさ、前にスクアーロが言ってたこと、どうやったら理解できるかなーって、考えてた」
「俺が言ってたこと?」
覚えが無いのか、今度はスクアーロが首を傾げる番だった。
「うん。つってもよ、あんたが俺に向かって言ったことじゃないぜ。呟いたのをたまたま聞いただけ」
そう。あの呟きはスクアーロにしては小さい呟きで、かえってよく覚えていた。
「……で。おまえは何の呟きを聞いたんだ?」
若干不機嫌気味に、スクアーロが尋ねてくる。
呟きが聞かれたからかもしれない。
「あのな、確か『剣になるために人を捨てた』って。あれどういう意味だ?」
「あぁ……そのことか」
スクアーロはため息をついた。
「おめーみてーな甘ちゃんには一生解んねぇことだぁ。聞いても無駄だ」
「そう言うなよー。気になるじゃんか」
山本が喰い下がるとスクアーロはじろっと睨んできた。
「しつけぇぞぉ!! 期間付きで剣以外捨てたくらいじゃ、俺の覚悟は解らねぇ!!」
これには山本も黙るしかない。
確かに剣を持って一年も満たない自分とは違い、スクアーロは二十年以上、へたをすれば三十年近く剣を握り続けている。
そんな彼の思いを、自分が簡単に理解できるとは思えない。
山本はうつむいた。それを見てスクアーロはやれやれと首を振る。
しばらく火がはぜる音しか聞こえなかった。
剣士二人は黙したまま、目の前の火を見つめる。
山本はおずおずと、スクアーロを盗み見た。
自分が知る過去の彼とは、やはり違う。
前髪は長くなって片目を覆い隠しているし、どこか落ち着いている感じがする(そこは気のせいかもしれないが)。聞いた話だと、ヴァリアーの作戦隊長に就任したらしい。
見た目も立場も、十年前と違うスクアーロ。
しかし山本は……本当の意味で彼が変わったとは思えなかった。
彼の本質は変わらない。そう思う。
「……なぁスクアーロ」
「何だぁ? まだ何かあるのか」
しつこい、とでも言いたげなスクアーロに、山本は尋ねる。
「他の生き方をしようと思ったことねぇの?」
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