異世界の守り人

□トラペッタ
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 情報を集めるには酒場が一番だという考えはどこの世界でも共通らしい。人が集まる場所だからというのもあるだろうが、酒に酔うと口が軽くなるというのも理由の一つかもしれない。
「しかし二日酔いになるほど飲む奴の気が知れんな」
 まだ日が沈みきっていないというのに顔を赤くしている男達を見、アリィシアは眉をひそめた。
「アリィシアはお酒強いの?」
「まぁまぁかな。エイトは?」
「僕は普通。ヤンガスは……訊くまでもないか」
 エイトの視線の先では、ヤンガスが杯を給仕の女性から受け取っていた。
「……ほっとくか」
「う、うん」
 アリィシアとエイトはカウンターにいる酒場のマスターに近付いた。
「おや、旅の人かい?」
 マスターがこちらに笑顔を向けた。
「何飲む? ビール? それともカクテル?」
「僕達が欲しいのはお酒じゃなくて情報なんです」
 エイトが首を横に振った。
「マスター・ライラスという老人をご存知ありませんか? この街にいると聞いてやってきたんですが」
「マスター・ライラス?」
 眉間にしわを寄せるマスターに、アリィシアは首を傾げた。
「どうかしたか?」
「あ、いえ。そのー、非常に言いにくいんですけどね」

「ライラスは死におったよ」

 と。隣からそう言う声がかかってきた。
 そちらに目を向けると、一人の中年の男が一人カウンターに座っている。
 眉根を寄せてうつむく姿はいかにも不機嫌そうで、酒をあおる動作も荒々しかった。
「死んだって……本当ですか?」
 エイトが驚いたような顔でその男とマスターを見比べた。マスターの方はぎこちない動きで頷く。
「ええ。つい先日、火事で」
「火事って……まさかあの煙が?」
 アリィシアが尋ねると、マスターは再び頷いた。
「ええ、そうです」
「けど、先日なら何で今も煙が? とっくに火は消えているはずだろう」
「それが……解らないんですよ」
 マスターが声を低めたので、アリィシアとエイトは自然身を乗り出した。
「ライラスさんは魔法使いだったそうで。それによる事故だから火が消えないなんて話がありますが、私は他殺だと思いますよ」
「どうしてですか?」
「火事の前、ライラスさんと誰かが言い争っていたのを見たという人がいるんですよ」
 マスターはそう言って、じっと見つめてきた。
「かつてのライラスさんの弟子で、名前は確か――ドルマゲス」
「……! アリィシア」
「あぁ……」
 二人は顔を見合わせた。
 エイトは険しい顔で、アリィシアはしかめっ面という違いがあったが。
 どちらにせよ、今の話が本当だとしたら……
「ふん。ライラスの奴、まさか自分の弟子に殺されるとは思ってもみんかったろうな」
 隣の男がぼそりと呟いた。マスターはため息をつく。
「ルイネロさん、お酒飲み過ぎだよ。あんたの当たらない占いじゃあまり酒代は出せないだろ?」
「うるさい! 黙って……ん?」
 男――ルイネロはふいにこちらを見た。その顔には、難しい表情が浮かんでいる。
「おまえ達、顔を見せろ」
「えっ……」
「はっ……」
 驚く二人にかまわず、ルイネロはじっとこちらを見つめてくる。そして何かを言おうと口を開いて――

「大変だ! 魔物が現れた!」

 その言葉に、アリィシアははっとした。
 酒場に転げるように入ってきた若者は、震え声をつむぐ。
「街の中央に、緑の魔物が……」
「緑のってまさか……陛下……!?」
 エイトの焦った声が、隣から聞こえてきた。




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