異世界の守り人

□忘れられた修道院
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 翌日、アリィシア達は再びマイエラ修道院に来ていた。
 勿論、ククールに会うためである。もっと言うなら、指環を返すためだ。
 ゼシカが渡された指環には十字架が彫られており、明らかに聖堂騎士団内にて何らかの意味を持っているだろう代物だった。
 すぐさま指環を突き返したいらしいゼシカが突っ走らないよう、ルーラで移動した。
 ちなみに呪文を発動したのはアリィシアではない。エイトである。この旅により、彼は着実に魔法を覚えていった。
 とはいえ、ルーラを使うことができたのは意外だが。あれはあまり難しくない分、使い手が少ない魔法なのである。
 ともあれ、早朝すぐマイエラに着いたせいか寄付や布施を請われなかったのは幸いだった。指環を見せるとすぐに修道院の宿舎に入れたし、これならククールにすぐ会えそうだ。
「でも肝心の本人が見付からないんだよな、これが」
「アリィシア、それ独り言……?」
 聞き込みをしていたエイトの発言に、アリィシアは頬をかいた。
「いや、悪い。現状把握のために今置かれた状況を呟く癖があって」
 おそらくサンディと一緒にいたせいだろう、と内心で結論付けた。彼女といたら、会話も独り言だ。
「? まぁいいや。それよりククールさん、地下にいるって」
「地下? 地下って、そこ?」
 ゼシカが目を瞬いて、宿舎の入口の隣にある階段を指差した。下へと続く階段はどこか陰鬱な雰囲気を出していて、できれば近寄りたくない。
「何でも異端者を閉じ込める牢や、戒律を破った僧を罰する懲罰室があるらしいんだけど」
「……納得」
 アリィシアはぽつりと呟いた。
 ともあれ、四人は地下に足を向けることにした。
 だが。
「……っ!」
 アリィシアははっと振り返った。
 今、全身の毛を逆撫でするような嫌な気配を感じたような――否、ようなではない。今なお、身体の周りを取り巻いている。
 この邪悪な気は、一体何だ?
 まるで、この修道院全てを包み込んでいるような……
「これは……」
「……アリィシア」
 と。エイトの声に、アリィシアは我に返った。しかし、振り向いた青年の顔もさえない色をしている。
「……おまえも感じたか」
「うん……ゼシカとヤンガスは何ともないみたいだけど」
 エイトは前を行くヤンガスとゼシカを見た。彼らは特に何も言わず、階段を降りていく。
 おそらく天使であるアリィシアや、呪いをはじくという異能を持つエイトだからこそ感じるのだろう。この邪気は、巧妙に隠されている。聖職者が集まるこの場所で何の騒ぎにもなっていないのがいい証拠だ。
「後で、調べた方がよさそうだね」
「あぁ」
 二人は頷き合い、地下へと足を踏み入れた。




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