書庫V

□きっと明日は
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 なぜ戸惑ったんだろう。
 ツナのすぐ隣を歩きながら京子は思った。
 嫌なら、というツナの言葉を聞いた時、否定したくなったし、実際否定した。その上、ツナの言葉に戸惑いを感じたのだ。
 それだけではない。一緒にと言われた時、胸が締め付けられるような感覚におちいった。
 今も、ツナが隣にいるというだけで……
「……京子ちゃん?」
 ツナの声に、京子は我に帰った。
「あ、ごめんツナ君……何?」
「うん。なんかぼーとしてたから、さ、その……」
 しどろもどろになるツナを、京子はじっと見つめた。
 そう言えば、ツナ君って最初、スッゴい人って感じだったなぁ、と京子はふと思う。
 こんな、内気な少年のイメージは無かった。とにかく、言葉では言い表せないぐらいすごくって。でも、喋ってみればごく普通の少年だった。
 でも……
「ツナ君」
「えっ。な、何?」
 桜色の頬のツナに、京子は笑いかけた。
「ツナ君ってすごいね」
「え」
「持田先輩を素手で倒したり、山本君を助けたり、棒倒しの総大将になったり。ライオンから私を守ろうとしてくれたこともあったよね」
「え、えーと」
 最初の二つは死ぬ気弾のおかげ、三つ目は無理矢理なのだが、京子は知らない。ツナも、咄嗟に否定の言葉が出なかった。
「あと、ドロボー捕まえたり、海で溺れた子助けたりもしてた。黒曜の怖い人達を倒したり、相撲大会でも勝ったよね」
 それでも彼は、変わったりしなかった。平凡だけど、優しいままだった。
「あの……京子ちゃん? 何で、そんなに覚えてるの?」
 ツナの質問に、京子は簡単に答えることができた。

「ずっと、見てたから」

 一瞬の沈黙。次いで、ツナは大仰なほどの動揺を見せた。
「え……えぇ!? あ、あの京子ちゃん、それってどういうこと!?」
「……え?」
 ツナの言葉に、京子は一瞬きょとんとする。しかし自分が言ったことを思い返し、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「あ、あの、変な意味じゃないんだよ? えっと、その……」
 今度は京子がしどろもどろになる番だった。
 何で戸惑うんだろう。本当のことを言っただけなのに。
「……ぷ」
 と。突然ツナが吹き出した。
「ツ、ツナ君っ」
「ご、ごめん。でも、ついおかしくて」
 笑うツナにつられ、しばらくして京子も笑顔になった。
 少し前までは、こんな風に一緒に笑って歩けるなんて思ってもみなかった。
 一緒にいることが、楽しいと感じることもなかった。
 彼の凄さは、目に見えるものだけではないと京子は思う。
 内面の中にある凄さ。それは普段は隠れて見えないけれど、それが見えた時、ツナの本質が解る気がした。
 そして自分は、少しずつ彼のその凄さに惹かれ始めている。
 今までは彼の内面見ていなかったのかと思うと、少し哀しい。これからは、彼の内面を見ることができるだろうか。
「あ、京子ちゃん家着いたね」
 ツナの言葉に顔を上げれば、見慣れた自分の家があった。
「じゃあね京子ちゃん。……あ、そうだ」
 ツナは制服のポケットからお守りを取り出した。
 それは京子が友達の三浦ハルと一緒に作ったものだ。
 お守りを渡した時のツナの笑顔は強く、本当に強く……思わず見とれたのを覚えてる。
「祝勝会の時、言いそびれたんだけど……お守り、ありがとう」
 そう言って背を向けるツナ。
「っ……バイバイ、ツナ君! また、明日ね」
 振り返ったツナは真っ赤だったけれど……満面の笑みを浮かへていた。




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