書庫V

□剣の覚悟
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「……は?」
 わけが解らないと言いたげなスクアーロに、山本は話をし始める。
「スクアーロは剣にだけに神経注いでてさ、正直かっけーと思うんだ。でも……他の道を選ぼうとは、思わなかったのかなって思ってさ」
 スクアーロは考え込むような素振りをした後、首を横に振った。
「無ぇな。そんな余裕、無かったし」
 その後、ふと遠い目になる。
「例え暗殺者にならなくても……剣になる道を選んでたかもな」
「剣に……なる道?」
 剣の道ではなく、剣になる道なのか。
「……スクアーロって、やっぱ俺とは全然違うのな」
「何当たり前のこと言ってやがる」
 スクアーロは片眉を上げた。
「……」
「……」
 またもや沈黙。それを破ったのは、今度はスクアーロだった。
「てめぇのその匣兵器」
 スクアーロの目が、山本の腰に下げられた匣に視線を注いだ。
「扱いに気を付けろ。剣は持ち主を選ぶ。だが、斬る相手は選ばねぇ。俺自身、『剣』だからよく解る」
「スクアーロが剣? スクアーロは人間じゃねぇのか?」
 目を瞬いて尋ねると、スクアーロの顔から表情が消えた。
 仮面のような顔に、山本は少しゾッとする。
「人間、か……『人間』らしい生き方してたら、肯定できたんだがなぁ」
 明かりに照らされている顔がスクアーロじゃない気がして、山本は口を開くか否か迷った。
「……俺はザンザスの剣として戦ってきた」
 スクアーロぽつぽつ話し出した。
「あいつに会うまでもいろんな敵を斬り続けた。その様子を見て皆俺を鮫と称したが、俺自身はそうは思えねぇ」
 義手を握り締め、炎を見つめる。銀の双眸にゆらゆら炎が映った。
「俺は剣なんだ。人を殺すための剣。だから斬る相手を選ばないし、人間らしい感性も……ほとんど無い」
「……」
「だからだろうなぁ。人をいくら斬っても……もう、何も感じねぇ」
 スクアーロの瞳には寂しさや悔恨はは無い。
 ただ無感動に、炎を見つめるだけだ。
「山本、おまえももし、剣を握り続けたなら解る」
 スクアーロの瞳が、炎から山本に移った。
「剣士は剣を扱う者であると同時に、剣そのものっだってことをなぁ」
「剣、そのもの……」
 山本は時雨金時を見下ろした。




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