異世界の守り人
□プロローグ
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アリィシアは、かつて天使だった。
今は翼も頭の上の輪も失い、普通の人間と変わらない姿になってしまったし、世界中の人々はそもそも天使の存在を忘れてしまったが、それは事実なのだ。
そして二年前、世界を救った勇者もまた、彼女なのである。
後者はあまり知られていない事実であり、前者にいたってはほぼ皆無だが、しかしアリィシアはそれに対して思うことは無い。
別に名声を求めて世界を救ったのではない。勇者という称号が欲しかったのでもない。
ただ救いたかったのだ。自分が愛するこの世界を。
そして守りたかったのだ。何があっても共に戦ってくれた仲間を。
「バルガ、キユウ、メイ」
アリィシアは仲間の名を呟き、そして微笑む。
「元気、かなぁ」
同じく世界を旅しているだろうかつての仲間を思い出す。
どこか抜けているけれど、いざという時は頼りになるバルガ。
常にクールで、細身で華奢なくせにパワーファイターだったキユウ。
パーティのムードメーカーで、いつも明るい笑顔だったメイ。
大切な、仲間。
なのに、なぜ解散したのか。その理由は、リッカも知らない。知っていたなら、そもそもあんな提案はしなかったろう。
不和があったわけではない。そうではなく――
「……え?」
アリィシアは町の外に出て、すぐさま足を止めた。
障害物があったわけではない。けれど、そこには、確かにあった。
渦を巻く、青い何かが。
「これは……まさか旅の扉?」
かつて天使界で読んだ本に載っていた、触れた人物を別の場所に運ぶ物体――否、現象が目の前にあることに、アリィシアは少なからず動揺していた。
どうして、町の入口にこんなものがあるんだろう。出入りの激しいこの関所で、誰にも発見されず――
「……まさか」
これは――必然だろうか。
むしろこれを偶然と片付ける方に無理がある。
別に自分が運命に選ばれているとうぬぼれているわけではないけれど、そう思わざるをえない場面に、アリィシアは何度も遭遇しているのだ。
目的があった二年前も。
目的が無かった二年間も。
「……セレシア様、これも貴女のお導きなのでしょうか」
アリィシアは神の国にいるであろう女神に対して尋ねる。勿論答えが帰ってくるはずが無いし、そもそもそんな小さな言葉が彼女に届くはずがない。
けれど、覚悟を決めることはできた。
「……よし」
アリィシアは一つ頷くと、旅の扉に足を踏み
入れた。
続く…