異世界の守り人

□いばらの城
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 城が呪われた。その事実は、青年の心を暗雲に閉ざすには充分だった。
 たった一人呪いから逃れたという現実。それに押し潰されそうだった。
 けれど、けして独りではないのだ。まだ、自分は独りではない。
 だからこそ、あの道化師を追わなければならないのに――


「っくそ……」
 青年――エイトは後ろに跳びのいた。
 目の前にいるのはいばらの身体を持つ竜だ。おそらく、呪いで現れたいばらから生まれた魔物だろう。いばらの身体にも関わらず、炎を吐き出す辺りはさすが竜というところか。
 近衛兵として訓練してきたエイトだが、これほど強い魔物を相手にするのは初めてだ。しかも大人数で戦うならともかく、今は一人で戦うしかない。
 逃げるしかないのだろうが、この魔物は大きさに反して素早く、とても背を向けて逃げられるような相手ではない。
 こんなところで死ぬわけにはいかないのに。
 自分が死んだら、誰があの道化師を追うというんだ。
 誰が、陛下と姫を守るというんだ――!
「っ……」
 足がもつれた。転びこそしなかったものの、体勢が崩れる。それを見逃すほどに、魔物も甘くはない。
 魔物は雄叫びを上げ、いばらの腕を鞭のように振り下ろした。
 エイトは避けられない。それでもせめて、剣を持ち上げる。

 ザンッ

 何かが斬り裂かれる音が響いた。エイトは、それが何の音かは解らない。
 ただ、目の前で青が舞ったことだけ理解した。
 青。青い衣。
「何とか間に合ったな」
 青い衣がそう言った。
 いや、青い衣が喋るはずが無い。違う。喋ったのは、青い衣をまとった人物だ。
 青いマントの付いた服に羽の付いた青い帽子。手袋も薄い青色で、膝丈まである黒いブーツ。
 そして片手で構えられた、青銀の剣。
「怪我無いか、おまえ」
 突如現れた剣士は首を巡らし、こちらを見た。
 帽子の下から紅い双眸が覗く。鋭いその瞳に、エイトは身体を構えた。
 しかし彼女は、エイトを見て笑う。
「怪我は無いようだな。じゃあ……とりあえず下がっていろ」
「え……?」
「私があいつを倒してやる」
 青い女剣士は、魔物に向き直った。
「大丈夫。これでも私は強いんだ」




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