異世界の守り人

□異世界の住人
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 目を覚ましたアリィシアは、まず自己紹介をすることにした。話はそれからだろうという判断からである。
「私はアリィシア。そうだな……通りすがりの旅人――と言いたいところだが、もはや通りすがりと言うには関わり過ぎか。だからただ旅人だと認識してもらって構わない」
 あえて、旅の魔法戦士とは名乗らなかった。アリィシアはすでに気付いている。ここが自分のいた世界とは違うことに。
 ならば、職業という概念も無いかもしれない。まだ自分が異世界の住人だということは隠すべきだろう。
「はぁ……あ、僕はエイトと言います。トロデーンの近衛兵をしています」
「トロデーン……って、先程の城のことか?」
「はい」
 ということは、呪われたのはつい最近のことというわけか。見たところ、彼は二十歳に至るか至らないかぐらいの歳のようだし。
 しかし、疑念が生まれる。
 彼が呪われたトロデーン城の人間だったとして、どうして彼だけ呪いから逃れられたのか。
 天使だった自分も、呪いからは無関係でいられないのに……
「……」
「あの?」
「……あ、あぁ、すまない。それで、そちらは?」
 アリィシアに視線を向けられ、緑の魔物は胸を張った。
「わしはトロデーンの国王、トロデじゃ。ほれ、ひれ伏してもよいぞ」
「……エイト」
「はい?」
 首を傾げたエイトに、アリィシアは言った。
「この魔物は虚言癖でもあるのか?」
「虚言ではないわい!」
 トロデは怒鳴った。
「そもそもわしは魔物ではない! もともとは人間じゃったんじゃっ。それを、ドルマゲスとかいう頭のイカレた道化師に呪われて……」
「ドルマゲス?」
 アリィシアは眉をひそめた。
 ドルマゲスとは、確か地下に封印されていた魔王達の中の一人だったような……
「アリィシアさん、ドルマゲスを知っているんですか?」
 エイトの問いかけに、アリィシアは即座に首を振った。
「いや。……それで、呪いのせいでそんな姿に?」
「そうじゃ。我が娘、ミーティアも……」
 トロデがアリィシアの後ろに目を向ける。アリィシアは振り返り、こちらを見つめる美しい白馬を見やった。
「……あの馬も、か?」
「そうです」
 頷くエイトを見て、アリィシアはため息をつきたくなった。
「なるほど。そうか、そういうわけか……全く、とんだ導きだ。本当に、つまらない展開になってきやがった」
「アリィシアさん?」
「呼び捨てで頼むよ」
 アリィシアはエイトにそう言って微笑した。
「ここまでくればあらかた察した。つまり、おまえ達は呪いを解くためにドルマゲスを追ってるんだろう?」
「はい」
「その旅、私も加えてくれないか?」
「え……えぇぇぇぇ!?」
 エイトの驚きの声が、森中にこだました。




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