異世界の守り人

□占い師と魔術師
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 壁も柱も家具も、何もかもが焼け焦げた家。原形を留めたものは何一つあらず、ただの消し炭と化している。
「マスター・ライラス」
 その中心で、ライラスの霊は立ち尽くしていた。
 白い髪にしわくちゃの顔。しかし背はぴんとまっすぐに伸びていて、かくしゃくとした雰囲気を持っている。
「……おぬし、わしが見えるのか」
「勿論。貴方がさまよっている理由も知っている」
 驚くライラスに、アリィシアはこくりと頷いて見せた。
「ドルマゲスのことでしょう」
「……そうじゃ」
「教えていただきたい。あの日、何があったかを」
 アリィシアは焼け跡に踏み入った。
「ドルマゲスと言い合ってたのは、聞き及んでいるが」
「そうじゃ。あの杖を――暗黒神が封じられたあの杖を持ち出したのじゃから」
「……暗黒神?」
 アリィシアは片眉を上げた。
「暗黒神とは何だ?」
「……遠い昔、わしの祖先が封じた異界の神じゃ」
 ライラスは顔を歪めた。
「何百年も昔、七人の賢者が一つの杖に封印した災厄の神。その後トロデーン城にて外郭の封印を施されたが……」
「ドルマゲスがその封印を解いた、か」
 アリィシアは自分の顔がどんどんしかめられていくのを感じた。
 もとより、そういうたぐいの話は天使界にいたころから大嫌いなのだ。他力本願な者が、アリィシアの一番嫌いな存在である。
 それを言ってしまったら天使として本末転倒だとイザヤール様にツッコまれたっけ……
 ふと修行時代のことを思い出しかけ、アリィシアは頭をふって思考を止めた。今は関係無いことである。
「それで……ドルマゲスは、杖に操られたと?」
「そう考えるしかなかろうよ。おそらく、七賢者の子孫を殺して封印を完全に解く気なのじゃ。暗黒神――ラプソーンは」
「ラプソーン……」
 アリィシアは小さく呟き、自身の唇を撫でた。
「……嫌な名だ」
「忌まわしき名だよ。頼む、ラプソーンを止めてくれ。これ以上、悲劇を増やす前に!」
「もとよりそのつもりだ。人を助けるのが私の仕事だしな」
 アリィシアは微笑んだ。
「安心してくれ。ドルマゲスは――否、暗黒神は我々が倒す。だから、そろそろ神のもとに行った方がいい」
「そうじゃな……頼んだぞ。えっと……」
「アリィシア」
 誇りを持って、アリィシアは名乗る。この名は、今は亡き師が付けてくれた名だった。
「異界から来た、星の守り人だ」
「……ありがとう、アリィシア」
 そう感謝の言葉をのべて、ライラスは空気に溶け込むように消えた。
「ありがとう、か」
 アリィシアは軽く目を閉じる。
 この世界にも星のオーラはあるのだろうか。あったとしても、自分には見えないが……
「……戻ろう」
 自分に言い聞かせるように呟き、アリィシアはその場を後にした。




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