異世界の守り人

□塔と像
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 ゼシカ・アルバートがいなくなった。
 それが解ったのはエイトのペット、トーポの功績だった。
 アリィシアが聞いた悲鳴はアルバート家のメイドのものであり、彼女が悲鳴を上げた理由はネズミである。ネズミが苦手な彼女は、ゼシカの部屋に通じる穴にそのネズミが入ってしまったことにおたおたしていた。
 そこでエイトがトーポを穴に入れて探らせたところ、トーポは一枚の手紙を持ってきたのである。
 宛先はポルクとマルク。そこに書かれていたのは、彼らを利用したことを謝る文と仇討ちに対する決意が書かれていた。
 これを二人に見せたところ、彼らは顔色を変えてゼシカの部屋を見た。
 当然もぬけの殻の部屋があるのみだった。おそらく、窓から出ていったのだろう。
 二人はすぐゼシカの行き先を思い至ったようだが、どうもそこには魔物が出るらしい。その頂上で、ゼシカの兄は殺されたそうだ。
 そこでアリィシア達が名乗りを上げ(実際はヤンガスは上げてないが)、現在に至るわけである。


「――で、このリーザス像の塔とやらにゼシカ・アルバートはいるわけか」
 アリィシアはこけむしった壁を持つ塔を見上げた。
 目の前には鉄と木でできた扉があり、そこを通らなければ入れないらしい。
「この門はさ、村の人間にしか知らない開け方があってさ。今回は非常事態だし、開け方教えてやるよ」
「そんなことしなくても、周りを取り囲む壁を何とかして跳び越えることはできそうだが――下手人も、そうやってここに侵入したんじゃないか?」
 アリィシアが首を傾げると、ポルクはそれを否定した。
「違うよ。サーベルトにいちゃんは、この門が開いてたからこの塔に登ったんだよ。でなきゃ、お参りの日以外にこんなとこ来ないよ」
「年に一度ある、魔物が出ない日だっけ」
 エイトの呟きに、ポルクは頷く。
「うん。盗賊は、頂上にあるリーザス像の瞳にはめられた宝石を狙ったんだ。それを阻止して、にいちゃんは……」
 言葉が続かなかったらしい。ポルクは声をつまらせた後、ぶんぶん頭を振った。そして顔を上げ、門に近付く。
「魔法のたぐいじゃあないよな。魔力は感じないし。からくりか?」
「うぅん。まあ見ててよ」
 ポルクはしゃがみ込み、そして。

 扉を持ち上げた。

 扉は内にも外にも開かず、上の壁に吸い込まれてしまったのである。
「引き戸の上バージョン?」
「引き戸って?」
「……いや、何でもない」
 アリィシアは、エイトの質問に答えなかった。
「……ま、とりあえず中に入れるようになったな」
「げすね〜」
「うん。ポルク、君は村に戻ってくれ」
 エイトに言われ、ポルクは何か言いたそうな顔をしたが、やがてゆっくり頷いた。
「解った。気を付けろよ」
 ポルクは踵を返し、来た道を戻っていく。それを見送った後、エイトが陛下、と馬車の中に呼びかけた。少ししてのそのそと、トロデが姿を現す。
「全く……おぬしのおせっかいで、とんだ寄り道をせねばならぬな」
「すみません」
「いや。おぬしの考えももっともじゃからの。気にするでない。わしはミーティアと共に待っておるから、ゼシカと言う娘を見付けてこい」
「はっ」
 エイトは軽く頭を下げた後、塔の中へ入っていった。
 その後をヤンガスと共に続きながら、アリィシアは思う。
 はたしてドルマゲス――もとい、ラプソーンの手がかりはここにあるのだろうかと。




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