異世界の守り人

□像が見た記憶
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 誰も何も言えなかった。
 誰もが愕然とし、言葉を失う。
 ただ真実だけが、彼らの目の前に突きつけられていた。
『これが……あの日の、真実、だ……』
 サーベルトは途切れ途切れにそう言った。
『旅の方……リーザス像は、なぜか貴方達を待っていたようだ……理由は、解らないが……』
「え……?」
 エイトは目を丸くした。蚊帳の外だと思っていたのに、いきなり呼ばれて戸惑ったのだ。
『ゼシカ……もう、私は行かなければ、ならない……』
「いや……嫌よ、兄さん。行かないで……」
 ゼシカは目に涙をためて弱々しく懇願した。けれど、死者であるサーベルトが現世にとどまっていられるはずが無い。
『無理だよ、ゼシカ……私は、これ以上ここにいられない……』
「にい、さ……」
『ゼシカ……母さんに何を言われようと、おまえはおまえの信じた道を行け……私は、いつでも見守っ、てい、る……』
 声が遠ざかっていく。炎が収束するに従って、魂がリーザス像から離れていくようだった。
「兄さん!」
 ゼシカは像に強く呼びかけた。けれど、像は何も答えない。炎と共に、サーベルトの魂はそこから消え去ったのだと悟らざるをえなかった。
 ゼシカはしばらく呆然と像を見上げていたが、やがて膝から崩れるようにその場にへたり込んだ。
「兄さん……兄さん……」
 顔を覆い、兄を呼ぶゼシカを、エイトはそれ以上見ていられなかった。
「アリィシア、ヤンガス……」
「……あぁ、そうだな」
「行きやしょうか……」
 二人も同じ気持ちだったようで、共に階段を降りていく。
「あっ……ま、待って!」
 と。突然ゼシカに呼び止められた。振り返ると、ゼシカは涙に濡れた目をこちらに向け、言いよどんだ。
「えっと、あの……」
「何?」
 できる限り優しい声を出すと、ゼシカはうつむいた。
「盗賊と間違って、ごめんなさい。村に帰ったら、おわびするから……だから今は、一人に、して……」
 弱々しい声を途切れさせ、ゼシカは再び顔を覆ってうつむいた。それを見たエイトは小さくうんと返事をして、その場を後にした。




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