異世界の守り人

□ポルトリング
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 露店に売られていた武器と、自分の財布とにらめっこしていたエイトは、ふとアリィシアに肩を叩かれた。
「金、出してやろうか?」
「え!? い、いいよ! 悪いよっ」
「しかしそんな真剣に財布を睨みつけてるということは、金無いんじゃ……」
「違うよ。僕城からの給料ほとんど使ってなかったから、むしろあまっちゃうぐらいなんだけど……」
「けど?」
「一応そのつど確認しとかないといけないでしょ。いざって時、無かったってオチ嫌だし」
「確かにな」
 アリィシアは納得したように何度も頷いた。彼女も経験があるようだ。
「じゃ、何買うんだ?」
「僕は鉄の槍を……ヤンガスはどうする?」
「あっしでがすか? あっしは……あの鎌でげすかね」
 ヤンガスが指差したのは、柄に緑の布が巻かれた鉄製の鎌だった。それを見たアリィシアは、目を丸くしてる。
「どうしたでがすか、姉御」
「どうしたって……どう見てもあれ、草刈り用じゃないか?」
 アリィシアの言葉に、エイトはまじまじとその鎌を見る。確かに、戦闘用には見えなかった。
「けど、武器屋で売ってるってことは武器としても使えるんじゃない?」
「……確かに。ただの棒を剣として売ってる世界だからな、ここは……」
 アリィシアはうなだれた。彼女のセリフに多少のひっかかりを覚えつつも、エイトは鉄の槍と鉄の鎌を買う。
 合計千六百六十ゴールド。それでもまだまだ余裕があった。
 そもそも、元が小間使いとして城に仕えていたエイトである。昔から腕っぷしは強かったとはいえどういうわけか近衛兵に大抜擢され、高給となってからもずっと質素な生活をしていた。
 今着ている服だって、数着しかない普段着の中で一番旅に適した格好を選んだだけだ。旅人がよく着用する麻でできた服ではなく、ただの布の服である。
 そこでふと、エイトは思い至った。
「そうだ。せっかくだし防具も買おう」
 ほんの小さな呟きだったにも関わらず、アリィシアはそれを拾ったらしい。いたずらっぽい笑みを浮かべられた。
「確かに、おまえが着てるのただの布の服だもんな」
 しっかりばれていた。
「どうせ持ってる服から一番旅に適したもの着てるだけなんだろ」
 しかもずばり的中された。
「あ、あはは……じゃ、じゃあアリィシアは盾ね」
「は? 何で」
 本気で意外そうな顔をされ、エイトは一瞬言葉に詰まった。しかし、自分がそう言ったのにはわけがある。
「だってアリィシア。この間剣弾き飛ばされてたじゃないか。あれ、盾があったらそんなことにならなかったんじゃない?」
「う……」
「ほらほら、ここで一番いい盾買ったげるから」
 何だか初めてアリィシア勝った気がするエイトである。アリィシアには冒険者としても戦士としても精神的にも、ついでに身長も(その差五センチ)負けているため、少し嬉しい。
 ぐいぐい背中を押すと、アリィシアは待て待てと言いながら振り返った。
「一応、盾持ってるんだ」
「じゃあ何で使わないの?」
「……動きにくいから」
「…………」
「そんな目で見るなよ。あー、解った解った。取ってくる。それまでに買い物すませとけよ」
 アリィシアは肩をすくめて町の外に向かっていく。赤い裏地の青マントをひるがえす後ろ姿が何だか怒っているようで、エイトは思わず頬をかいた。




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