異世界の守り人

□船上の攻防戦
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 陸地が見えなくなってほどなく、船が海上でゆっくり止まった。
「この辺りよ」
 ゼシカに言われ、エイトは背中の槍を手に取った。ヤンガスも鎌を構え、アリィシアは剣の柄に手をやる。
 しばらく黙ってじっとしていると、海面にごぽごぽと気泡が浮かび上がった。
 それは次第に大きくなり、そして。

 バッシャアァァァァァァァァァァァァァァァッ

 盛大な水しぶきを上げて赤い魔物が現れた。
 吸盤のある複数の長い足、ヒレの付いた三角の頭、口らしきものは筒状で、全体的にイカに似た魔物だ。船の半分はあろうかという巨体で、足は人間の胴ほどもある。
「……あー」
 隣のアリィシアの呻き声に、エイトは振り返った。
「どうしたの?」
「……軟体動物ってどうも苦手なんだよなぁ」
 アリィシアは眉をひそめて帽子越しに頭をかいた。別におびえている様子は無く、ただ単純に、本人の言う通り苦手なだけのようだ。
「……ま、だからって戦わないわけにはいかないだろ」
「そだね」
「しかしあれ、イカだよな。色合いはタコだが」
「案外その二つがかけあわされてたりして」
 エイトは苦笑して槍を構えた。
 魔物の方はというと。
「なぁ、人間て生意気だよなぁ。あぁ、生意気生意気」
 ……一人会話してた。特に長い二本の足を、生き物に例えて。
 あ然としている間も、魔物の一人会話は続く。
「許可無くこのオセアーノン様の頭上を通りやがってよぉ……本当生意気だな。あぁ、本当本当。そんな奴らは殺しちまっていいよな。あぁ、殺しちまえ殺しちまえ」
「っ……!」
 あまりにあっさり言われた言葉に三人は一瞬ほうけるが、すぐさまそれぞれの武器を構えた。
 まず率先して、アリィシアとエイトが走り出す。だが魔物――オセアーノンの息を吸うような動作にたたらを踏んだ。そして。

 ゴオォォォォォォォッ

 その口から、火炎が吐き出された。
「何で海の魔物が炎を吐くんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 背後からヤンガスの叫び声が聞こえる。そのツッコミはもっともだが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「くっ」
 エイトは来るであろう炎の熱に備えるため、身を縮こませた。
 だが。
「……?」
 炎は、確かにエイトの身体を覆った。けれど、思ったような強い熱は襲ってこない。
「軽減されたか?」
 隣で、アリィシアがにっ、と笑った。その手には、炎のようなオーラが揺らめいている。
 エイトは一瞬ぽかんとしたが、すぐさまそのオーラがアリィシアの全身、果ては自分の身体にまで灯っていることに気が付いた。
「何、したの?」
「炎の攻撃を軽減する魔法をかけた。武器にも、炎の力が灯っているはずだぞ。ほら、ぼさっとするな!」
 言われ、周りの炎が収束し始めていることに気が付いた。
 それに気付いた時には、すでにアリィシアは動き出している。剣を持ち、気合いの入った声を上げてオセアーノンに肉薄した。




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