異世界の守り人

□出会い
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 酒場に入った時、客の一部がある方向に視線を向けていることに気が付いた。
 同じように視線を向けたエイトは、四人の男を視界に収める。
 四人の内三人は、おそらく仲間なのだろう。唯一席についている筋骨隆々の男が、どうやらリーダーのようである。三人が三人、いかにも荒くれ男という風情だ。
 しかし残りの一人の男は、どうやら違うようだった。
 こちらに背を向けているので顔は解らないが、その後ろ姿は細身で、組んだ脚は長い。長い髪は銀髪で、黒いリボンでまとめられていた。
 それだけでも人目を引くのに、彼が着ている服は真っ赤に染め上げられている。デザインは多少違うが、どうやら聖堂騎士団の制服のようだった。
「あれ。聖職者って酒禁止じゃなかったっけ」
「アリィシア」
 いつの間に来たのだろう。アリィシアは隣でエイトと同じくその男を見つめていた。
「だよね。いいのかなぁ、お酒飲んで」
「駄目に決まってるじゃない! 何あいつ、生臭坊主よっ」
 ゼシカが柳眉を逆立てた。どうやら、聖職者の飲酒を潔癖なまでに嫌っているようである。
「飲酒だけじゃねぇみたいでげすよ」
 ヤンガスの言葉にどういうこと? と尋ねる前に――
「くそっ、また負けた!」
 悔しげな声を上げて、荒くれ男が立ち上がった。
「……なるほど」
「ポーカーか」
 エイトは苦笑し、アリィシアは肩をすくめる。ゼシカは更に表情を険しくした。
 好奇心にかられて彼らに近付くと、荒くれ男が聖堂騎士団の男に喰ってかかった。
「てめぇ、さっきからイカサマしてんじゃねぇだろうな!?」
「イカサマ? そんなわけないだろ。あんたの運が悪いだけだ」
 荒くれ男に迫られ、しかし聖堂騎士団の男は平然としている。近付いてみて、その男はまだ青年と呼べる年ごろだと気が付いた。
 年は、自分より一つか二つほど上だろうか。薄い青色をした瞳の、かなりの美形である。薄く引き締まった唇は意地の悪い微笑を浮かべており、瞳は楽しそうに細められている。
 妖艶ささえ漂わせる彼は、手に持ったワインの入ったグラスをあおり、荒くれ男を嘲った。
「だいたいそんな証拠がどこにあるんだよ。証拠も無しにそんなこと言うなら、あんたこそイカサマでもしたらどうだ? それともそんな器用さも無いか」
「何!?」
「まぁまぁ落ち着きなって」
 解りやすい挑発に乗った荒くれ男を、ヤンガスはなだめた。
「あんたの気持ちは解るが、そんなにがなってもしょうがねぇよ」
「うるせぇ!」
 しかし荒くれ男は、ヤンガスを邪魔だとでも言うように突き飛ばした。ヤンガスは勢いあまり、カウンターにぶつかる。にわかに悲鳴が上がった。
「っ、のやろー、何しやがる!」
 ヤンガスが男の胸ぐらを掴んだ。そのまま殴りつけるかと思いきや――

 バシャアァァァンッ

 突然ぶっかけられた水に、それは中断された。




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