異世界の守り人
□忘れられた修道院
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ククールは、やはり懲罰室にいた。もっとも、そこには思いもよらぬ人物もいたが。
「……昨夜、またドニで酒を飲んでいたそうだな。しかも賭事をした上に、乱闘騒ぎも引き起こしたとか」
低い、こちらの居住まいを正させるような声に、エイトは扉の前で固まっていた。
「……これ、確か昨日の」
「イヤミ男!」
「ゼシカねぇちゃん、静かにっ」
ゼシカの声を、ヤンガスがたしなめる。幸い中には聞こえなかったらしく、別の声が低い声――マルチェロに応じる。
「さすが団長殿、耳が早い」
「……ククールもいるな」
アリィシアは腕を組んだ。なぜか彼女の声は、酷く苦々しげである。中から漂う不穏な空気を感じ取っているのかもしれない。
一同が押し黙る中、マルチェロの声が響く。
「おまえは一体、どれだけ騎士団の評判を下げれば気がすむんだ? オディロ院長に言われなければ、おまえなどすぐにでも追い出してやるのに。全くおまえは疫病神だな」
あまりにあんまりな言葉に、エイトは顔をしかめた。
聞き込みをする中で、ククールの騎士団内での評価はあまりかんばしくないことは知っていた。
けれど酒場で飲んだくれ、更に騒ぎを起こす僧は他にもいることをドニの町で耳にした。実際、あの時も酒場の二階で飲酒をしていた修行僧がいたそうだ。
それに乱闘騒ぎは、こちらにも非があった。それを全てククールのせいにするのはいささか度が過ぎてないだろうか。
しかし、耐えられなくなって部屋に入ろうとしたエイトの耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。
「そう、疫病神だよ。おまえが生まれなければ、誰も不幸にならなかった。私の中に、半分でもおまえと同じ血が流れているとは、本当に信じたくない」
ぴきり、と、全身の筋肉が固まった気がした。
今、マルチェロは何と言った?
彼と、ククールに同じ血が流れている?
つまり二人は、兄弟、なのか?
「騎士団員ククール、貴様には数日の謹慎を言い渡す。次に問題を起こした時は、オディロ院長が何と言おうと貴様を追い出してやる」
その声に、エイトは言葉を失う。
マルチェロの声には、その一言一言に憎しみが込められていた。唾棄するようにククールを罵る言葉を一つ取っても、心底彼を憎悪していることが感じ取れる。
エイト達は部屋の中の二人にバレないよう、そっとその部屋から離れた。
「……まずいこと聞いちゃったわね」
ゼシカが気落ちした声を出した。
「ただのキザな奴ってわけじゃなかったけね。……印象は変わらないけど」
最後の一言で台無しだった。
しかし、先程の会話で少し気になった人物がいた。
「オディロ院長か……マルチェロさんが逆らえなくて、ククールさんを擁護してるみたいだけど」
「あんな兄が上司じゃ、擁護したくもなるよなぁ」
アリィシアが呟き、こちらに視線を向けた。
「会ってみようか。……さっきから感じる、この邪悪な気について何か知ってるかもしれない」
「そうだね」
エイトは頷いた。
もしかしたらドルマゲスの情報が得られるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。
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