異世界の守り人

□嘆きの亡霊
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 一体入ってから何時間たったのだろうか。日の届かない地下では判別がつかない。
「最初は大丈夫かなって思ったけど」
 ゼシカが傷んだ髪を気にしながら呟いた。
「けっこう、きついかも」
「だね。腐った死体とかミイラとかって、なかなか倒れないし」
 床に座り込んで休んでいたエイトは、膝の上に乗ったトーポの頭を撫でた。
 どうやら倉庫として使われていたらしい部屋で、エイト達は休息を取っていた。
 連続した戦いは魔法で回復させねばならないほど彼らを疲弊させたが、同時に彼らの力を底上げする効果もあった。
 特にゼシカは、目覚ましい勢いで戦闘技術を上げていっている。今まで魔物との戦いを経験したことがないせいだろうか。
「しかし、ずっと使われてなかったわりにはまだ使えそうなものもあるよな。ほら、この盾とか」
 アリィシアが部屋の端にあった箱をさぐり、大振りの盾を取り出した。
 青銅製のその盾は多少埃をかぶっているものの、確かにまだ使えそうである。おそらく、昔の騎士団が使っていたのだろう。
「エイト、これ使え」
 アリィシアがずい、と盾を差し出した。
「……何で僕?」
「ゼシカじゃこの重量の盾は使えないし、ヤンガスはおまえの方がいいと聞かなくてな」
 アリィシアが指す先には、壁にもたれるヤンガスの姿があった。確かに彼なら言いそうだ。
「でも、ヤンガスより僕の方が……」
「自分をかえりみろ、馬鹿」
 つんと強く額をつつかれ、エイトは後ろに倒れそうになった。慌てて体勢を立て直すと、アリィシアの微笑が目の前に現れる。
「おまえは私達のリーダーなんだぞ。倒れられたら困るんだ。それに、回復の要であるおまえが怪我で動けなくなったら世話無い」
「……僕よりアリィシアの方がリーダー向きだと思うけどな」
「そんなことないさ」
 アリィシアは微笑を、苦いものに変えた。
「私は一度失敗しているんだ。そんな私が、リーダー向きであるはずがない」
「……アリィシア?」
 その言葉の意味を訊こうとして、しかし遮られてしまった。
「アリィシア、後ろ!」
 ゼシカの悲鳴に近い声に、アリィシアは振り返った。
 その際に抜刀、後ろに向けて凪ぐ。
 その場で一回転。気が付いた時には、アリィシアは先程と同じようにこちらを向いていた。
 けれど、彼女の背後にいたそれは違う。
 僅かに開いていたらしい扉から入ってきた腐った死体は、首から上を失って立ち尽くしていた。
 しばらくして、胴から離れ離れになってしまった頭が床に落ちる。べちゃりと落ちたそれは、潰れた果実のようだった。
 遅れて胴体が倒れると同時に、アリィシアは剣を納めている。その顔には、不意を突かれたという驚きも、危険を回避したという安堵感も無かった。
 ただの日常の一コマだとでも言いたげに、無表情だった。
「そろそろ行こうか。あまり一ヶ所にとどまっていては無駄に時間を喰う」
 アリィシアの淡々とした声に、エイトはとっさに二の句が継げない。
 ますます解らなくなった。アリィシアという人物像が。




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