異世界の守り人

□嘆きの亡霊
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 旧修道院の奥に進むごとに、障気が強くなってきた。それだけで常人を倒れさせるだけの毒を秘めたこの空気は、アリィシアにルディアノ城を思い起こさせる。
 あの城はかつてのセントシュタイン王の願いの対価により滅んでしまった。
 まさかとは思うが、この修道院ではやったという伝染病もそのたぐいだったのではないだろうか。あるいは、ベクセリアに広まっていた病魔の呪いに近いものか。
 どちらにせよ、今では確かめようもないが。
「……何なのかしら、この嫌な空気」
 ゼシカがぽつりと呟いた。彼女も感じているのだろう。徐々に濃くなる、この障気に。
「何か……あるのかもしれない」
 エイトが鉄の槍を構え直した。
「ゼシカ、君は下がって。さっきので、体力を随分削っただろう?」
「大丈夫よ。これくらい………」
「ゼシカねぇちゃん、無理しない方がいいでげす」
 ヤンガスが鉄の斧を持ってやんわりと言った。
「ゼシカねぇちゃんはまだ戦い慣れてないんでげすから、あっし達に任せてくだせぇ」
「でも……」
「しっ。全員黙って」
 アリィシアは何か言いかけたゼシカを遮り、正面を指した。
「何かいる」
 剣を抜き、示した先には法衣を着た人影がいた。
 深い赤紫の法衣はぼろぼろで、かぶった同色の帽子も形が崩れている。手にした錫杖もところどころ錆が浮いていた。
 一見すると神父に見える服装。しかし。
「あれ……人?」
 ゼシカの震える声に、アリィシアは首を横に振った。
「違う。あれは、亡霊だ」
 帽子の下にあったのは、肉も皮も無い骸骨だった。
 亡霊は、アリィシア達を見ると呻き声を上げる。
「ウウゥォォォオオオオ……苦シイ、苦シイ……」
「伝染病で死んだ、ここの坊さんの霊でがしょうか」
「多分ね」
 顔をひきつらせるヤンガスに対し、エイトは冷静な顔付きで槍を構えた。
 亡霊は、なおも慟哭を上げる。
「皆死ンダ……死ンダ死ンダ死ンダ死ンダ死ンダノダ……ウゥゥ……」
 亡霊はゆらりと前に進み出た。エイト達はそれぞれの武器を構える。
「……クッ、クククッ。我ガ苦シミィ! 我ラガ苦シミヲ、オマエラニモ味合ワセテヤルゥゥゥウウ!」
「来るぞ!」
 アリィシアは声を張り上げ、盾を構えて前に出た。
 案の定、亡霊の手からぱちぱちとスパークを上げて魔力の塊が放たれる。それを盾ではじきながら、アリィシアは剣を振るった。
 アリィシアの一撃を受け、亡霊はよろめく。軽やかに後ろに下がると、エイトが間髪入れず槍を突き出した。しかし亡霊はそれを錫杖で受け止めてしまう。
「っ……」
 先程と同じ魔力の塊が飛んでくるのを見て、エイトは後ろに下がりつつ青銅の盾で受け止めた。
 そこにヤンガスが突っ込んでいく。三撃目も何とか避けたものの、身体をよろめかせた亡霊をゼシカの鞭がしたたかに打ち据える。
 アリィシアとゼシカの攻撃をまともに受け、しかし亡霊は倒れなかった。
 錫杖で地面を叩き、何かを呼び出すように手を振る。
 途端、地面の下から腐った死体と骸骨が這い出てきた。




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