異世界の守り人

□嘆きの亡霊
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 現れた二体の死体は、ぼろぼろながらそれぞれ質素な法衣と青い騎士服を着ていた。ここで死んだ僧侶と騎士団員だろうということがうかがえる。
 敵が増えたことにより、亡霊一人に攻撃を集中しているわけにはいかなくなった。そのため、エイトがアリィシアとヤンガスに指示を出す。
「アリィシアは亡霊を、ヤンガスはそっちの死体を相手にして! 僕は」
「きゃあっ!」
 ゼシカは悲鳴を上げた。剣を持った騎士の骸骨が、自分に向かって剣を振り下ろしてきたからである。
「ゼシカ!」
 そこへエイトが割って入り、盾でその攻撃を防いだ。
 一撃はなんとか受け止めたものの、第二撃が鱗の鎧をかすめる。怪我は無かったようだが、鎧には太い線が刻まれた。
「エイト!」
「大丈夫、君は下がってて」
 エイトは少しだけこちらを見、そして微笑んだ。
 その笑みに安堵しつつも、ゼシカの中にふつふつと怒りがわいてくる。
 エイトにではなく、亡霊達にでもなく、己自身にだ。
 自分は守られるために旅を始めたのではない。
 旅を始めたのは、仇討ちのため。あの邪悪な道化師を倒すためだ。
 なのにこんな風に守られるなど、そんなことは許せなかった。
 強くなりたい。守られるのではなく、守るための力が欲しい。
「ゼシカ?」
 骸骨の相手をしながら、エイトが気遣わしげに声をかけてきた。
 戦いの最中だというのに、なんて優しい声だろう。
 この声と、並べれるぐらい強くなりたい。
「みんな、下がって!」
 ゼシカの気迫のこもった声に、エイトとアリィシア、ヤンガスは反射的に従った。逆に追いかけてきた亡霊達に、ゼシカは鞭を脇にはさんで両手を突き出す。
 ゼシカは魔力を集中させ、きっ、と亡霊達を睨み付けた。
 とたん、両手から炎が吐き出される。メラのような火球ではなく、のたうつような炎。炎は亡霊達をなぶり、内二体を焼き尽くす。
 残ったのは、焼け焦げた身体を震わせる神父の亡霊のみ。
「今よ!」
 ゼシカの放った魔法に呆然としていた三人が、はっとして武器を構え直した。
 ヤンガスの斧が錫杖を持った腕ごと斬り飛ばし、エイトの槍が頭蓋の右半分を貫く。アリィシアが法衣と共に亡霊の身体を真っ二つにすると、その身体はぐらりとよろめいた。
 上半身と下半身が離れた亡霊を見、ゼシカはほっと息をつく。安堵からか、身体から力が抜けていった。
「……ゼシカ、今のギラ?」
 と。そう問う青年に、ゼシカは笑みを返した。
「私だって、いつまでも弱いままじゃないんだから」
 そう言うと、エイトは穏やかな笑みを見せてくれた。




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