異世界の守り人

□嘆きの亡霊
4ページ/5ページ




 下半身を無くし、力無く倒れ伏す亡霊を、アリィシアはじっと見つめた。
 伝染病により苦しみ抜いて死んだ哀しい亡霊。ずっと一人で、物言わぬ仲間を見続けていたのだろうか。
 それは、とても哀しい。
「もう、苦しまなくていいんだ」
 アリィシアは、そう言って亡霊を抱き寄せた。後ろから息を飲む声が聞こえる。
 当たり前だろう。もしかしたらまだ攻撃してくるかもしれないのに、無警戒に触れたりしたのだから。
 けれどアリィシアには、彼にもう戦う力が無いことを感じていた。
「もう苦しまなくていいから、もう嘆かなくていいから、だから――もう神の元へ行きなさい」
「神、ノ、元ヘ……?」
「そう。神も……先に神の元へ行った仲間も、きっと待ってる」
「ォ、ォォオオオ……!」
 亡霊の身体が次第に崩れ始める。
「神ヨ、神ヨオォォォォ……今、オ傍ニ参リマス……」
 か細い声と共に、亡霊の身体は溶けるように消えた。
 彼がいた後には錆の浮いたロザリオのみが残される。それを拾い上げ、アリィシアは仲間を振り返った。
「アリィシア……」
「大丈夫」
 アリィシアはエイトに微笑みを返し、ロザリオを懐にしまった。
「彼はちゃんと、神の元に行ったから」
「……そっか」
 エイトは何か言いたそうだったが、しばらくして笑みを返してくれた。
「それじゃあ行こうか。……こんなところで時間を喰っている場合じゃない」
 エイトは槍を背負い、盾を付けなおした。
「この先に、きっとドルマゲスがいる」
「よーし、気合い入ってきたでがすよ!」
「ドルマゲス……!」
「……行くぞ」
 アリィシアの言葉に、全員頷く。そして修道院の奥へと進んでいった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ