異世界の守り人

□凍れる炎
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 老人の身体を貫く杖が怪しく輝く。紫色の禍々しい光は、老人の生命力を奪うかのように増した。
 アリィシアはこの光景に、過去の記憶を重ねていた。
 状況は違う。全く違うのに。
 どうしてイザヤール様と重ねてしまうんだ……?
 ずるりとオディロの身体から抜けた杖は、不可視の力によってドルマゲスの手に戻った。
 オディロはぐらりとその場に倒れ伏した。広がる血だまりの中に倒れるその身体は、ぴくりとも動かない。
「哀しいなぁ……おまえらが言う神も、私の味方をしてくれているようだ」
 妖しく輝く杖を手に、ドルマゲスは妖しく笑う。その姿が、なぜか末期のガナサダイと重なって。
「くくく……この力だ……もうここには用は無い」
「う……」
 その言葉を、アリィシアは聞いていなかった。
 頭の中がふっとうする。身体中が煮えたぎる。

 視界が、赤い。

「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 絶叫。全身から力を吐き出すかのように、叫ぶ。
 気付けば剣を抜き、跳躍していた。高い場所にいたドルマゲスよりなお高いところまで跳び、銀河の剣を振り下ろす。
 がんっ、という、鈍い金属音が響いた。ドルマゲスの杖が、アリィシアの剣を防いだのだ。
「……誰かな、君は」
 ドルマゲスのよどんだ目が、アリィシアを捉えた。アリィシアはその顔に、盾を付けた手を向ける。
 間近から放たれたヒャドの氷風が、ドルマゲスの顔半分を凍らせた。
「っ、くっ」
 ドルマゲスが慌てたようにアリィシアを振り払った。投げ飛ばされた形になったアリィシアは、しかし軽やかに地面に降り立ってドルマゲスを睨み付ける。
「この魔力は……そうか、そういうことか」
 凍り付いた顔を魔力で溶かしたドルマゲスは、にぃ、と笑った。
「哀しいなぁ、哀しいなぁ……翼を失ってなお、それでも剣を持つのか……」
「な、に……?」
 再び飛びかかろうとしていたアリィシアは、ぎくりと身体を強ばらせた。
「何を、言って……」
「解らないかい? 解らないならそれでもいいさ。代わりに素敵なプレゼントでも送るかな。しかしとりあえずは」
 ドルマゲスの魔力が彼自身を覆う。全員が身構える中で、ドルマゲスは放った衝撃波で背後の窓を割った。
 ぱらぱらと落ちるガラスに身体をすくめる人間達を、道化師は嘲笑う。
「それでは皆さん、お元気で」
 ドルマゲスの姿が、窓に近付くたびに薄れていく。
「っ、待て!」
 エイトの制止の声。けれど、ドルマゲスの姿は消えていく。
「誰も私を止められないんだよ」
 後に残ったのは、嘲笑う声のみ。
 ドルマゲスが消えた窓から見えたのは、不気味に輝く満月だけだった。




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