異世界の守り人

□旅、再開
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 団長室まで行くとマルチェロだけでなく、ククールと、なぜかトロデまでいた。
「陛下……いらしていたのですか?」
「うむ。わしらのこと、ちゃんと説明しておいたぞ」
 トロデが頷くと、執務机に座ったマルチェロは肯定した。
「ええ。話は、こちらの方に全て聞きました。……憎むべきは、ドルマゲス。私達としても、奴を放っておくわけにはいきません。ですが、私は新院長として皆を導かねばならないし、他の団員も似たり寄ったり――そこで、どうでしょう」
 マルチェロは壁に背を預けていたククールを指し示した。
「我が弟、ククールを同行者として、連れていってはくれませんか? 貴方がたも、ドルマゲスを追っているそうですし」
「……団長殿、規律を守れない奴は弟として見ないと言ったのは、貴方ではありませんか?」
 ククールが不機嫌極まりないという顔で反論した。それに対し、マルチェロはじろりと彼を睨み付ける。
「黙れ。私はこのかたたちと話している」
「……」
 顔をそろしたククールにマルチェロは小さくため息をつき、再び口を開いた。
「今現在、ここを離れても大丈夫なのはおまえしかいない。他の者は役目があるが、おまえは」
「あぁ、もういいですよ。ようはやっかい払いでしょ」
 ククールは投げやりにそう言って、扉に近付いた。
「解りましたよ。出ていけばいいんでしょう。仇討ちはおまかせを」
 扉を開け、部屋を出ていくククール。その後、トロデもまた部屋を出た。
「先に馬車で待っておるぞー」
「はっ」
 エイトが低頭すると、トロデはとことこと去っていった。
 マルチェロに向き直ると、彼は何やら紙を差し出した。
「これは世界地図です。この旅に役立ててください」
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
 エイトは地図を受け取り、頭を下げた。
「せめてもの餞別です。これからあの愚弟がご迷惑をおかけするでしょうから」
「……僕は」
 エイトはじ、とマルチェロを見つめた。
「彼が旅に付いてきてくれること、心強いと思ってます」
「……どういう意味ですか?」
「あの時」
 エイトは思い出す。オディロ院長を助けようと必死になった彼の姿を。
「あの時、燃える橋を渡ったのは、彼だけでしたから」
 他の団員達は口ばかりで、誰一人炎を恐れて橋を渡ろうとはしなかった。
 けれど彼は、今にも落ちそうな橋を臆さずに渡りきった。橋と一緒に落ちたかもしれないのに。
 彼なら、どんな苦境でも逆境でも耐えられる気がした。
 きっと、つらいことが続く旅だと思うから。
「僕らが必要としている仲間は力の強い人じゃない。本当の意味で強くて、勇気のある人です。彼は、きっとそうだ」
「……どうでしょうかね」
 マルチェロの皮肉に、エイトはとりあわなかった。
 ただ頭を下げ、仲間を振り返ったのみである。
「行こうか、みんな」
 ヤンガスとゼシカは頷く。けれどなぜか、アリィシアだけが腕を組んで瞑目している。
「アリィシア?」
「……悪い、エイト。先行っててくれ。私はマルチェロさんに、少し話がある」
 アリィシアの言葉を、エイトは少し不審に思う。アリィシアはマルチェロに対して最初からいい感情を抱いてはいないようで、徹底して話さないようにしていたはずなのに。
 気にはなった。けれど結局、エイトは頷いた。




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