異世界の守り人

□月夜の下、教会にて
3ページ/5ページ




 今日中につくかと思いきや、世の中そうそううまくいかないらしい。
 魔物との戦闘などで時間を喰い、気が付けば空は茜色に染まっていた。
「うーん。アスカンタまでには、まだかかるかなぁ」
「地図見る限りでは、一日で付くとは思えないが」
 アリィシアが何とも言えない顔をした。
「うぅん、今日は野宿かぁ。ククール、ごめんね。旅始めて一日目でこんなんで」
「別に、いいけど」
 でも、とククールはまだ少し遠い場所にある橋を指差した。
「こっからじゃ見えないけどさ、あの橋渡ってすぐに教会があるんだよ。少し寄付金出せば泊まれる」
「本当?」
「おう」
「そっか! あ、でも陛下と姫が……」
「顔隠したらどうかしら」
 ゼシカの提案に、アリィシアが思い出したようにあ、と小さく声を上げて馬車に走り寄った。
「ちょっと失礼。えっと、私の袋は……うぅん、やっぱり前みたいに自分で持っとくかな」
 止まった馬車から自分の袋を取り出し、何やらごそごそし出したアリィシア。それを何となく眺めていると、頭上から声がかかった。
「おーい、おまえさんら」
「え?」
 エイト達は顔を見合わせ、次いで視線を上に上げた。
 二、三メートルほど高くなった場所に、腰の曲がった老人が立っていた。しわくちゃの顔に白髭をたくえており、それなりに老齢だというのか見て取れる。
「おまえさんら、アスカンタに向かうんかね?」
「ええ、そのつもりですが……」
 エイトが答えると、老人の顔がす、と曇った。何やら言いたげな顔だ。
「あの……?」
「悪いことは言わん。あの国には行くな。言っても後悔するだけじゃ」
 老人はそれだけ言うと、丘の向こうへ言ってしまった。視線を巡らすと、小屋が見える。どうやらあそこに住んでいるようだ。
「何だったんだ、あのじいさん」
「さぁ……って、アリィシア、それって……」
 エイトはふとアリィシアの方を見、目を丸くした。
「ネタで買ったんだが、案外役立つものだな」
 アリィシアはおかしそうに笑う。そんな彼女の手には、白い付け髭と緑の帽子があった。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ