異世界の守り人

□願いの丘
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 願いの丘の頂上に到達すると、やはり予想通り夜になっていた。
 問題は、頂上の状態である。
「……何も無い?」
 エイトの呟きが聞こえてきた。
 彼の言う通り、頂上には何も無かった。ただ崩れた壁と、窓枠があるのみである。
 ほかは何も無い。
「やっぱあの話、ガセだったんじゃねぇの?」
 ククールが前髪をかき上げながら眉をひそめた。
 彼の言う通り、この場合はガセと考えるべきだろう。哀しいが、キラにはそう伝えるしかない。
 だが、アリィシアはそうは考え無かった。
「待て。しばらく待っていよう」
 アリィシアが止めると、動き始めていた一行は動きを止めた。
 否、全員ではない。ゼシカだけが、アリィシアと同様その場でじっとしていた。
「姉御? ゼシカねぇちゃん? どうしたんでげすか」
「あなた達は気付かない? この場に満ちる魔力を」
 ゼシカが神妙な面持ちで辺りを見回した。
「今、ここを離れてはいけないわ」
「ゼシカの言う通り」
 アリィシアは同意しつつ、窓枠に近付いた。
「目に見えるものだけが全てとは限らん。今は形を持たなくとも、ある条件を満たせば現れるものがある」
「ある条件?」
「そうだな。例えば満月の日に限定している点とか」
 アリィシアは夜空を見上げた後、窓枠に視線を戻した。
「満月の夜だからこそできるものとか」
「満月の夜だけ?」
 エイト達は首をひねった。その様子を見、アリィシアはくっ、と喉から笑う。
「ところでこの影、何かに似てないか?」
「何かって……」
 何、と言いかけたらしいエイトの言葉が、不自然に途切れた。ついで、その丸い目が見開かれる。視線は、窓枠の影に向けられていた。
 影は、壁に映り込んでいた。上部分が半円の、細長の形。縦に、一本線が入ったそれはまるで――
「……扉?」
 ククールが呟く。そう、その影は、まるで扉のようだったのだ。
 しかし、一見その影は、ただの影にしか見えなかった。特に変化があるわけではない。
「っ、見て……!」
 エイトが影を指差した。
 目を向けたアリィシアは、目を丸くする。影が、淡い光を発していることに。
 全員顔を見合わせ、再度影を見つめた。やはり影は、僅かながら発光している。
 代表してエイトが、その影に近付いた。彼の影で窓枠の影が一部消えるが、光が散ることは無かった。
 エイトが壁に手を触れた。
 一瞬、何も無いか、と誰もが思った。だが、それはすぐさま打ち崩されることになる。
「う、うわ……!」
 エイトが驚きの声を上げた。後ろにいたアリィシア達にも、動揺が走る。
 当然だ。影が、突然強い光を放ち始めたのだから。
 放たれる光は、銀。それはまさに、月の光だった。
 しかし、光は更に強さを増し、アリィシア達の目を閉じさせる。とても目を開けてはいられないのだ。
 やがて、辺りは光に包まれた。




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