異世界の守り人

□願いの丘
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 気付けば、不思議な場所に放り出されていた。
 どこまでも高い黒い空には満月や三日月、半月などの幾つもの月が円を描いて浮かんでいる。目の前には薄く発光する足場が点々とあり、奥へと続いていた。足場の下は、薄く水が張っている。
 あまりに幻想的な空間に、エイト達はあ然となった。
「……どこ、ここ」
 エイトの第一声である。何とも間抜けな声である。
「凄い……絵本の中にいるみたい……」
 ゼシカがうっとりと、空間に見入っていた。その隣で、ククールもほう、と感嘆のため息をついている。
「どこなんでがしょう、ここは。まさか、あの扉の中?」
 ヤンガスは、比較的冷静だった。この辺りは、年の功かもしれない。
 しかし、彼以上に冷静なのは、やはりアリィシアだった。
「後ろの窓らしきものを通れば、おそらく戻れるだろう。進めば……あの館に行くことになるかな」
 アリィシアの言う通り、後ろには薄いカーテンの付いた窓があった。足場の向こうには、不思議な形をした建築物が見える。
「どうする? 進むか、戻るか」
「……進むよ」
 アリィシアの問いかけに、エイトはゆっくり進み出した。
「キラと、約束したからね」
「……だな」
 アリィシアも頷き、微笑を浮かべた。他の面々も、警戒しながらも前を見つめる。
「鬼が出るか、蛇が出るか。見物だな」
 アリィシアの言葉に、エイトは苦笑を返した。


 慎重に歩を進める一行だったが、幸い魔物はここにはいなかったようである。何ごとも無く、建築物に近付くことができた。
 建築物は小さな屋敷のようで、空間の雰囲気を崩さない、どこか浮き世離れしたデザインだ。
 この中に、誰かいるのだろうか。全員顔を見合わせる。
 開けるのにははばかれるし、かといってこのまま入口でたむろするわけにもいかない。
 どうしたものかとエイトが考えていると、アリィシアが動いた。
「邪魔するぞ」
「うわー!?」
 無警戒に扉を開けたアリィシアの腕を、エイトは慌てて掴んだ。アリィシアはこちらを見て首を傾げる。
「何だ?」
「何だじゃないよ! 何不用心に開けようとしてるのっ」
「なら、ここでずっとたまっているつもりか?」
 アリィシアの質問に、エイトは言葉に詰まる。確かに、いずれは開けねばならないのだ。それが早まったに過ぎない。
 エイトはうぅ、と唸った後、アリィシアに代わって扉を開けた。
 これから起こる奇跡など、予想だにせず。



続く…
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