風神

□高校生一年生 秋と休養
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事故の後、千葉にしばらく戻された。

兄様が心配して一週間だけ自宅療養を学園長に申し出てくれたのだ。

私の心の変化に気づいたのだろう。

あの事故から、体調不良と言い、ロードに乗っていなかった。

学園長もさすがに拒否は出来なかった。

尽八とは毎日電話してた。

いや

毎日電話がかかって来た。

「桜、電話…鳴ってるッショ?」

暇を使って私は総北の文化祭に来ていた。

「あぁ、うん…今はお昼休みかぁ…」

時計を見て携帯をしまった。

「出ないの?」

「後で電話するから。」

どうせメールも来るだろうし。
何より、毎日の会話が苦痛だった。

「ふぅーん…でも、それ、相手は例の婚約者候補ッショ?」

久しぶりの祐介との団欒なのに、祐介自身が水を指すのか!

「自分も婚約者候補。忘れた?」

「あぁ…なんか、桜とは近すぎて…たまに忘れるな。」

その言葉には苦笑いで応えた。

小学生の3年から一緒だから仕方ない。

でも…目的は総北の自転車競技部。

祐介は部室には連れて行ってくれないけど、同学年には会わせてくれるらしい。

それで来たのは、使っていない教室。

「金城と田所っちッショ。」

「どっちがどっちなのよ?」

適当な祐介に呆れてしまう。

「俺が金城だ。」
「んで、俺が田所。」

2人が名乗ってくれた。

「あぁ、竜堂桜。祐介の従姉妹です。」

私は2人にお辞儀をした。

「巻島の従姉妹⁉︎意外と普通じゃねぇか⁉︎」

いや…そうだね。祐介と比べたらね…。

「髪の色はやはり地毛なんだろう?大変だな。」

「ちょっ!田所っち!桜は普通じゃないッショ!あの箱根学園の自転車競技部のマネジャー兼コーチ補助!しかも、桜自身もロードに乗ってるクライマーッショ!」

祐介の言葉に2人が固まる。

「あ…来週からレースに出るよ。大した怪我も無かったし、来週のレースはうちの1年の天才クライマーのレースだからね。」

私は祐介に伝えた。
祐介は呆れてしまう。

「お前…また男子のレースに…」

「今年は男子のレースしか出て無いかも…」

皆のコーチングに夢中だったし。

「さすが…巻島の従姉妹…やることが…普通じゃないぜ…」

私は田所君に苦笑いしながら祐介を見る。

「最後は女子のレースに出るよ、多分。」

とだけ…伝えた。

金城君は私と祐介のやり取りに苦笑いしていた。


「明後日には箱根に戻って、学校にも行くし、東堂庵の手伝いも再開する!心配かけてごめんね。」

暇を持て余しているだろう私を文化祭に呼んでくれたのは長い付き合いだから、何と無く分かってた。

「祐介はこんな奴だけど、優しいから、よろしくお願いします。」

私は金城君と田所君に頭を下げた。

「「知ってるから。大丈夫!」」

2人の言葉に私は微笑む。

祐介は顔を真っ赤にしながら、必死に話題を変える。

「桜、いい加減に携帯のバイブがうるさいッショ!」

そう。

ずっと鳴り続けている携帯。

「ごめんね。うるさい奴なの。でも、今回の事件から過保護になっちゃった感じだから、無下にも出来ないし…」

「じゃあ、出ろッショ…」

なんか、祐介の前で出るのは駄目な気がする。
絶対、私の心を隠せない。ボロが出る。

「いや、出ないね。説明すれば分かるから。後でいいのよ。」

私は祐介に微笑む。

「じゃあ、総北名物!裏門坂!一緒に登るッショ!?」

祐介の目的はそれだろうとは思っていた。

「あぁ…ロード持って来てないから…」

違う…

「部室に予備があるッショ。」

違うの…
「ごめんね、今は登る気分じゃあないや。」

誤魔化せなくなるから…諦めて…

「桜!気分じゃあないってどういう事ッショ!?」

祐介がイライラし始める。

金城君と田所君が私を見つめている。

その間も私の携帯は鳴り続けている。

祐介がイライラして、私の携帯を取り上げた。

「返してっ!」

私は祐介に掴みかかる。

「ちょっと黙って貰うだけッショ!」

祐介がそう言うなり、私の携帯の通話ボタンを押す。

もちろん、尽八の怒鳴り声が響いてくる。

『桜!どういう事なのだっ!来週のレースをキャンセルするかもなんて聞いていないぞっ!?こら!きちんと説明しろっ!』

私は祐介から離れ、俯き、拳を握りしめた。
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