風神

□高校二年生 春と出会いと誘拐
1ページ/5ページ

私達は箱根学園で二年生になった。

「今年は悠理も靖友も違うクラスなのかぁ…」

私はクラス分けを眺めてボヤく。

まだ、ストーカーの解決に至っていないので、さみしい。

「おめさんとは、藤原かぁ…」

隼人のつぶやきに尽八が悶えている。

「仲間の誰もいないとは!どういう事なのだ!」

寿一が腕を組んでいる。

「資産家なのかもな。竜堂みたいに寄付金を大金で入れているとか…」

寿一の提案に悠理がクラス分けを写メ撮っている。

「つまり、クラスにストーカーがいるかもだよね。」

悠理の言葉に私の顔色は真っ青だっただろう。

「休み時間は教室を出て来いよ。じゃなきゃ、藤原といるかぁ?」

藤原は信じてもいいとは思うけど…怖い。

「どうしよう…」

「大丈夫だ。必ず守るぞ。」

私は頷きながら、皆に個別メニューの紙とレースの大会の予定の紙を渡す。

「こんな時も、しっかりしてんのねぇ?」

悠理は呆れてしまう。
でも、これは私が信頼されて、任された仕事だから。

「だって…尽八には絶対…祐介と走って欲しいし…」

私は悠理の影に隠れながらも言う。

「可愛いなぁ!桜!」

悠理に抱きしめて貰うと恥ずかしい。

「可愛いな…桜…」

意外だと言わんばかりの寿一のつぶやきに涙が出そう。

「今日はとりあえず、さっさと部室に逃げて来ること!」

悠理に言われて私は頷いた。









ホームルームが終わるのと同時に藤原に声をかけられたのにさっさと部室へと走った。

部室で藤原に謝る。

すると、藤原は意外に情報通だった。

「資産家の奴だろ?校医の新庄。世界史の原。うちのクラスだと、竜堂と御代志と夏目が寄付金が多いんじゃないかな?」

私達は藤原を見直す。

「うちも一応、企業家に入るからさ。それなりに知ってんのさ。」

苦笑いで言う藤原は絶対に対象外だと思った。

「でも、東堂庵には資本金は負けるよ。やっぱりさ。」

尽八を睨む藤原に、尽八は怯む。

「竜堂をまた、危険にしたら、俺が貰ってもいいか?」

藤原の言葉に尽八は背筋を伸ばす。

「やらん。桜は俺が振り向かせると決めたのだ。」

尽八の言葉に藤原が爆笑する。

「知ってるよ。お前のクライマーの才能も、お前の竜堂への想いも。」

藤原が苦笑いする。

「俺がインターハイに出れそうに無いこともさ…」

そう。
インターハイメンバーは王者の肩書きと、部員の想いを背負って立つのだ。

「それでも、まだ、インターハイメンバーは狙っているから、油断すんなよ?」

藤原が尽八に笑いかける。

そして、古踖がやって来た。

「東堂。ちょっといいか?」

尽八には友達がたくさんいる。

「竜堂の写真を撮っている奴いるぞ。多分、御代志だ。」

部室の窓を覗いていたのを追い払ってくれたらしい。

「古踖!感謝をする!」

私は悠理にくっつく。

「産まれて初めての女子友達だからかな…悠理の側って落ち着く…」

私の言葉に悠理が私を抱きしめた。

苦しかったけど、嬉しかった。









若女将の修業も部活も順調だった。


女将から廊下の管理を任された。

いつかは玄関やお部屋も任されたい。


東堂庵に来る時は尽八と来て尽八と帰る。

出来ない時は車を出して貰うか、仲間が来てくれた。

そして、箱根の山が登れる様になってからは、尽八と山岳と山を登っていた。


「桜さん…監視されてます?」

山岳の言葉に尽八が反応する。

「何と無くですよぉ?なんか、桜さんといると、嫌な感じが付きまとっているんでしはよねぇ…」

山岳の言葉に尽八がため息をついてしまう。

「いい加減に気持ち悪いな。何処でも視線があるのは…」

「そうね…」

私も珍しく弱気になって来てる。

五月の末にはヒルクライムのレースがある。

そこまでにどうにかしたいなぁ。









とは言っても

その御代志がストーカーと言う証拠も無い為、学園や警察にも言えない。

そんな状況の中で、私は油断していたのだと思った。








山岳と二人で夕方の山を登っていた。

本当なら尽八もいるのだが、女子からの呼び出しに応じる為に後から来る事になっていた。



山頂で休憩する為にロードを降りた。

そこには自販機もある為、車が止まっていることもしばしばある。


私は山頂でジュースを買い、山岳を待とうと、自販機と向かい合った。そこには車が止まっていたが、気に留めていなかった。

「桜さん!自販機から離れて!」

山岳の叫びに振り向こうとした時、車に引き摺り込まれた。

「桜さん!」

私は咄嗟に携帯を山岳に投げる。

山岳はそれをキャッチしながらも発進した車を追いかけて来た。

「貴方…校医の…新庄先生?」

「そう。悪いね。ある人に頼まれてさ。」

私の両腕はSPに固定されてしまう。








「だから!桜さんが誘拐されたんです!早く来て下さい!」

ロードで車を追いかけながら、山岳は尽八と私の携帯で連絡を取っている。

『だから!何処を走っていて、何処方面に向かえば良いのだ!?』

「そんなの調べて下さいよぉ?何回も道を曲がったりされて覚えてないですよ。車、離されると困るんで、電話切ります。」

山岳は電話を切り、目の前の車に集中する。








「うむ…」

尽八は電話を片手に校内の廊下を走る。

渋々と、一件のメールを送信する。

《桜が誘拐された。今、追っている奴がいるが、詳しく場所が特定出来ていない。
情報があれば欲しい。》

メアドを送られてから、差し障りのない挨拶だけで済ませていた。

向こうも何も言わないし、登録する事も躊躇っていた。

祐介へと。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ