風神

□高校二年生 夏と試練と課題
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六月の終わり。

私と仲間達は部室の更衣室で集まっていた。

隼人がウサギの話を皆にしたのだ。

ロードの練習は再開したらしい。

でも、左側ん走れない。
そう言った。

「くだらねぇ!新開!来い!」

靖友が怒り出した。

「靖友…?」

「桜の時みてえに練習するしかねぇだろぉが!」

靖友の言葉に寿一と尽八も立ち上がる。

「行こう、隼人。諦めるのは早いみたいだし。」

私も立ち上がる。








梅雨で雨だったけど、私達はロードバイクに跨がる。


「てか!てめえら!なんでいんだよ!」

「いやいや、俺も練習に付き合うつもりだったのだよ?口に出したのが荒北の方が早かっただけのことだよ。」


何日も何日も、隼人の練習に付き合う。

インターハイも近くなってきた。




悪態をつく靖友。

頭を撫でた尽八。

背中を押した寿一。








隼人はレースにインターハイ直前に戻った。

私達はレースを見に行く。


誰もが隼人の復活を願っていた。








「優勝は箱根学園!新開隼人選手!」

そのコールに走り出した。

隼人に駆け寄る。

「桜…ありがとさん。ご褒美くれるかい?」

隼人の弱気に私は笑顔で応えた。

「何が欲しいの?」

「ほっぺにキス。」

隼人の言葉に皆が固まる。

「別に尽八から奪うつもりはないよ。思い出だけ貰ったら、きちんと諦めるからさ。」

私は尽八を見つめる。

尽八はそっぽを向いている。

「すまない…新開…」

尽八のつぶやきに私は恥ずかしさを我慢した。

隼人のほっぺにキスを落とす。

「口は婚約者にとってあるからごめん…。仲間として…宜しく。」

隼人は微笑む。

「気にするな。諦める為にタイミングが欲しかったのさ。」

私と尽八は隼人の想いに気づいていなかった。

いつでも優しい隼人だったから。

優しいのが当たり前過ぎて…









そして、私達の広島遠征が始まる。








広島で総北と出会う。


祐介はインターハイのメンバーらしい。

「来年は巻ちゃんとインターハイに出てやる!」

尽八は燃えている。

私は自分のロードの整備を始めた。

「去年みたいなのはごめんだしね。」

渋滞でロードを飛ばした去年。

そこに部長が来た。

「桜…今日からサポートを頼むぞ。」

「はい!頑張ります!」

尽八と靖友が私の背中を叩いてくれた。








二日目。


問題が発生した。

総北の金城が怪我をしたのだ。

総北がゴールするなり寿一が走り出した。

私は慌てて寿一を追いかけた。

「すまなかった!」

寿一が頭を下げていた。

「落車させたのは俺なんだ。つい…手を伸ばして、ジャージを掴んでしまった…」

私は寿一を殴る。

「桜!」

「竜堂!」

祐介と田所が叫ぶ。

「私の事故があった!隼人の事故があった!
それなのに…事故を自分から起こすとか馬鹿じゃないの!?」

寿一は俯いている。

「竜堂…気にしていない。俺は明日もレースに出る。」

金城の言葉に私と寿一が目を丸くする。

「出なければ、結果は残らない。」

金城の言葉に、祐介と田所が苦虫を噛んだ様な顔をする。


「だから、福富。お前も必ず出ろ。」

そう言った金城はテントに戻って行った。

「寿一。借りは返すの。王者でありなさい。そして、総北の挑戦は受ける責任がある。」

私は寿一の背中を叩いて、テントへ連れて行く。

「寿一…?」

隼人が寿一の異変に気づく。

「明日の夜でいいよね?きちんと話し合うべきだわ、寿一。」

私の言葉に寿一が頷く。

「隼人。明日の夜で。」
「あ…あぁ…」


私は完全に腹を立てていた。

その後、祐介から電話来てもイライラしてた。

尽八は祐介からフォローする様に言われたのか、私の周りをウロウロしてる。



「桜さん…?」

「ウザい!尽八も祐介も!」

私はイライラが収まらない。
悠理は苦笑いしていた。

「桜…落ち着きなさいよ…東堂は何もしてないでしょ?」

悠理の言葉に私はシュンとする。

「そうだね…尽八は悪くないし、祐介は被害者だわ。」

私の肩を抱いてくれた悠理に微笑み、尽八に謝る。








無事にインターハイは優勝したが、私達の心にはシコリが残った。



その話は隼人と靖友、尽八と悠理で話は留めておいた。









東堂庵で働く間も、私と尽八に流れている空気に女将やスタッフが不審がっていた。








仲間が遊びに来ても、この空気は仲間も一緒だった。









来年のインターハイは後悔しないものにしなくてはならないのだ。
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