風神

□高校三年生 春と部活と羽根と意外性
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入学式からしばらくは箱根学園の新入生が新しく部員として来る分、忙しいのだ。


と、総北には顔を出せない週末が続く。


「泉田!メニューを増やしたから!
黒田と葦木場はメニューの変更!
さっさと取りに来て!」

私がメニューに追われている間は悠理がマネージャー達を仕切ってくれた。


「桜さん…機嫌悪いなぁ…」

山岳は遅刻して来て、私の顔色を見ると、尽八に擦り寄る。

「桜は最近、走れていないからな。」

尽八が溜息をついて山岳の頭を小突く。

「遅刻はするな。桜だけならいいが、俺達全員を怒らせるつもりか?」

尽八は必死に入学させた山岳の世話係に必然的になったのだ。


私は尽八に詰め寄る。

「しっかり教育してよ!」
「春休みどころか、去年の秋から言っても治ってないのだ!」

最近の私と尽八の喧嘩は大体山岳だ。

「あのぉ…すみませんでした。山が見えてしまって…」

山岳のこのいい訳も秋からずっとなのだ。

「あの二人、不思議ちゃんをさぁ、よく手なずけたもんだなぁ…」

靖友が感心するレベルまできた。

「おぅ、不思議ちゃん。桜のメニューはこなせてんのか?」

靖友の怖い笑顔も
天使の笑顔でスルーしている。

「はい。外周とかは朝の遅刻で賄えているので、部活はそれ以外をやってます。」

どんだけ遅刻しているのさ。

てか、学校に来てるのに部活に遅刻って…

「委員長から課題の山を渡されたり、やらされたり…」

「宮原さんか。彼女がいないとインターハイも行けずに補習になりそうだな…」

尽八が呆れてしまう。

「そうなんですよぉ…」

山岳の笑顔に疲れてしまった。









そうこうしてたら、いつも間にか、尽八も春休みに二回。三年生になって三回目のレースだった。

四月の末の週末にやっと千葉に来れた。

「丁度いいタイミングだな、竜堂。」

私は金城のその言葉に逃げそうになっていた。

「これから一年生レースっしょ。メニューを組むのに丁度いいタイミングっしょ。」

私に息抜きはないらしい。

「箱根学園自転車競技部マネージャーリーダーの竜堂桜。千葉が地元だから、知っているのもいるとは思う。よろしく。」

私の挨拶に何人かが反応する。

「あぁ、今泉のとこの…。」
「どうも。」

私のメニューに不信感が募ってるね。

「中学で俺をコーチングしてたっしょ。
今は箱根学園のレギュラー達をコーチングしてるっしょ。山神の東堂、野獣の荒北、この二人は始めからのコーチングと言っても過言ではないっしょ。」

祐介の言葉に興奮する赤い髪の少年。

「わい、鳴子章吉や!覚えとるか?」

「うん。あの後大変だったから…」

気持ちの整理つけに旅して、整理せずに帰って、部屋に篭って作ったメニューはハードだったから、靖友がキレた。


「でも、君のおかげでいいメニューだったと思うんだ。帰ってすぐに作ったやつ。総北もおこぼれ貰ったでしょ?」

その言葉に二年生が真っ青になっていた。

「ウォームアップしろ。時間になったらスタートする。」

金城の言葉に一年生が動き出す。

一人、面白いのがいる。


ママチャリでローラーに乗ってる。

「あれ、面白いわ…」

眼鏡で、細い身体。

「今泉とあの裏門坂を走ったんだぜ?本気まで出させた大穴ルーキーだ。」

田所っちの話にまだワクワクが増える。
尽八や山岳に教えたいけど…

「尽八には言うなっしょ…うるさいから。」

「うちの一年生の話はしてた?」

祐介は横に首を振っていた。

まぁ、まだわからないからね。

「わかった。なら、情報は流さない。どっちにも。」

「寒咲さんに頼んであったロードバイクは間に合わないな。」

金城の言葉にもっとワクワクする。









一年生レースが始まった。





「あのママチャリ!ギアついてんのね!面白いよ!」

一年生がいなくなったのを見てから祐介に興奮を伝える。

「すみません!遅くなってしまって…」

総北周辺の数少ない自転車屋さん。

「通司さん!幹ちゃん!」

私は数少ない友達に挨拶する。

「お、今週は来れたのか?」

「無理矢理来たんです。今、変な部員が多くて、かなり泣かれましたけど…福富は約束は守る男だから。」


入学の慌ただしい時節は過ぎたから。


「よし、乗りな。回収車の発車だ。」








通司さんの車が追いつくと、眼鏡の少年がママチャリで焦ってる。


「小野田、お前のロードバイクだ。これで追いかけろ。」

金城の言葉とタイムをギリギリまで使って発進した彼の登りは早かった。

「ケイデンスが半端ない…」

三人抜いた。

これは…東堂尽八みたいな、レア発見だ。

「ねぇ…尽八の初めてのレースを聞いた事ある?」

私はもう、ワクワクが止まらない。

「いや…」

「中学時代の親友に言われて仕方なく、壊れそうなママチャリでメット無しで参加したらしいよ。」

私の言葉に祐介は小野田坂道を見つめる。


「このまま三位か、追いつくか選べ。」

「追いつきます!」

金城と坂道のやり取りに笑いが止まらない。

「なら、ケイデンスを30あげろ!」

金城の言葉のままにケイデンスをあげた。

「ワクワクするね。

尽八は途中棄権せざるを得ない親友に借りたロードバイクに乗ってメットを被って、優勝しちゃったらしいよ。

こんなレア発見、楽し過ぎる!」


私はロードに乗っていない自分に後悔している。
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