novel

□さようなら、愛しいキミ
2ページ/2ページ






黒崎の家へとついた

部屋の窓は案の定
近辺が安全なのか、ただ無用心なのかは知らないが
鍵が開けられたままとなっていた


静かに部屋へと入ると
すぐ窓辺のベットで黒崎が寝ていた

部屋の雰囲気は、ガラリと変わっていた

先遣隊としてこの場所へ来た時は
部屋中が、黒埼の暖かい霊圧で満ちていた

だが、霊力の無くなったアイツの部屋は
前と変わり、寂しく冷たい部屋となっていた



月明かりに照らされ
黒崎の顔が白く染まっていた

人形のように
白く整った
綺麗な肌

触れてしまったら
溶けて消えてしまいそうなほどの儚い存在


黒崎の頬に手を添えると、指先に温かい体温を感じた
霊力と同じ、温もりを感じる




黒崎の存在は尸魂界にとっても、
俺にとっても特別だった




始め
旅禍として、尸魂界に乗り込んできた黒崎達は
敵として扱われた


だが、結果
藍染の悪事を暴く原因となった


朽木の妹の処刑は
中止となった



次に
虚園へと乗り込んだ黒崎達
それは、命令違反だった

だが、やはりお咎め無し



そして、
今回の藍染の件

黒崎が
命を懸けて、世界を救った
自分の霊力を犠牲にし、何もかもを助け出した



思い返せば
黒崎は一度も俺を「日番谷隊長」と言わなかった
何度注意しても、直らなかった
不機嫌を装っても、どこか心地よさを感じていた

黒崎は
特別だった



「黒崎………お前は、俺の事を…どう思ってたんだ…?」



知られてないだろうか

俺が黒崎に、抱く感情はあってはいけない事



こいつは

正規の死神じゃない
まだ子供だ

なによりも
自分と同じ、『男』であることが
思いを口から出す事を留め
自分の奥底へと隠した理由

誰にも打ち明けなかった
話せなかった
話したくなかった


誰かに打ち明ければ
その噂はたちまち広がり
いずれは黒崎の耳にも入るだろう

黒埼に避けられたなら
俺は死んでもいいと思った


黒崎は、俺の全てだった

何をしていても
どこにいても


頭は黒崎の事でいっぱいで
視線は黒崎の橙を探していた





猶予は、あと数分




時間を確認し、残りが少ないと知ると
一気に哀しさが込み上げてきた

だが、涙を流すわけにはいかないから
唇を噛み締める

添えていた頬の手が黒崎の橙の髪を撫でるように触れると
小さく声が聞こえた



「…………と、しろ…」




黒崎の声だった
黒崎が、小さく俺の名を呼ぶのが聞こえた

微かだが、“冬獅朗”と
黒崎の口は動いていた




唇を噛み締め
拳を震える程に握っても

先程まで堪えていた雫は
今は堪えられず、頬を伝った



「くろ、さきっ………黒崎…」



別れたくない

このままいっそ
命に背き、黒崎をどこか遠くへ
一緒に消えてしまおうか

だが、それは無理な事だから
隊長である俺が
尸魂界に背く事は出来ないから





せめて、最後

本人が聞こえていなくても
自分が言葉にする事はできる



「…好きだったぜ、黒崎…」



最後に額に軽く口付けをすると
自分の涙が黒崎に零れ落ち
黒崎も涙を流しているように見えた



「これで………最後だ…」



さようなら、愛しいキミ
(もう触れる事さえ許されない)





前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ