novel
□『ここにいる』
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昼休み
屋上で目を覚ます。
腕を上に伸ばし、欠伸をする
そうすると、改めて実感するのは、背が伸びた事だ
最近、よく腹が減る
すぐに眠たくなる
啓吾達と並んでも、以前よりも身長差が開いてきた
前までは、身長が少し伸びるだけで、あれ程喜んでいた自分がいた
だが、今はもう、興味さえ無くなってきた
⋯―…理由は只、比べる相手が居なくなっただけだというのに
力は無くなったが、代行証はまだ持っている
あっても意味は無いが、持っていれば仲間達が傍に居るような感覚になれる
これを持っていれば、みんなを忘れずにいられた
⋯―恋次は、オレの事を忘れてはいないだろうか
ふと、不安が過ぎる
副隊長のくせに、物覚えが悪い
それで『バカ狗』と呼び、痛い目にあったのを憶えている
恋次達は
オレが見えなくても、向こうからはこちらが見える
現世に来る機会があれば、こっそりオレの傍に居たのかもしれない
もしかすると、今、目の前に居るかもしれない
………だが、その期待を何度抱いても、その度絶望するだけだという事を
既に分かっていた
望んではいけないと分かっていても
やはり望んでしまう
「………………れん、じ…」
別れは突然だった
一ヶ月も眠っていたオレを
恋次が待つわけも無く、起きた時には恋次は居なかった
オレは、恋次に別れの言葉さえ言えなかった
会いたい。だが、会えない。
流れた雫が、頬を濡らす
「…恋次……。…会いてぇ、…ッ」
この声は君に、届くのだろうか―⋯?
小さく呟いた声は
吹荒れる風に掻き消された
『ここにいる』
声が聞こえた、気がした
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