novel

□Nothingness
1ページ/1ページ










黒崎一護という人間は




自分が弱いという事を自覚している

だが、それを決して口には出さない


自分が勝てぬ相手と知っても尚、

仲間の為だと、刃を振るう



















黒崎一護という人間は




自分が強大な虚の力を持っていると知って尚、

それに身を任せない


それが仲間を傷つけてしまう可能性があるからだと

奴は言った


身を委ねてしまえば、俺に容易く勝てたというのに



















黒崎一護という人間は




斬った相手を、決して嘲笑ったりなどしない


斬る事も、斬られる事も恐れ

仲間を守る為だけに刃を振るう


その為に、自分が死にそうになる事など

重々承知の上の筈だ
























黒崎一護という人間は




斬った相手にさえも

涙を流す



その相手が、仲間を傷つけていようとも、

……………そして、虚無であるこの俺にさえも、涙を流す












「………ウルキオラ…、オレは、アンタとは…戦いたく、なかった……

お願いだ…ウルキオラ………死なないで、くれ…っ!」




『泣くな』






出そうとした言葉は

奴の流した涙の所為で飲み込んでしまった


せめて、言葉で無理ならと、奴の頬に触れてみる。

温かく、優しい何かが、俺の中に流れ込む





(泣くな)




そう呟いてみたが

消えかかっている俺の声は

奴には届かなかった





(………こいつが泣くと、何故か無い筈の心が痛い)





それでも、自分の為に流された涙は

あまりにも綺麗だった







『Nothingness』とは、『虚無』の意


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ