novel

□握った手から
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「あれま……びしょ濡れじゃないっスか、黒崎サン」

「ここに来るまで雨が降ってたんだよ」




そう言う眉間をシワをいつもより深くした少年を
浦原商店の中へと入れる
雨の降ってる中、普通に帰るよりも遠回りになる此処に
わざわざ寄る少年は、正直言って可愛く思える




「あー、クソ。カバン中も濡れてる…」




カバンを開くと中身は濡れており
教科書類も悲惨な状態になっていた

悪態を吐きつつ
自分の渡してたタオルで教科書を拭いている少年
その少年の頭をタオルで拭いてやる




「早く拭かないと、風邪ひくっスよ」




そう言うと少年は




「あぁ、悪ぃ」




そう言い、また教科書へと目線を戻す
一心不乱に教科書を乾かす様は




「黒崎サン……可愛いっスねぇ」




口から漏れた言葉に
振り返った少年は目を丸くする

あ、可愛い

とか考えた自分は、余程重症なのだろう




「浦原サン……ヘンタイみてぇ…」

「…ヘンタイって…酷いっスね」

「……一応、本気だけど…」




そう言いながらも
また教科書へと視線を戻し、自分の頭を拭く手を拒まないところを見ると
嫌われてはないらしい

思いついたかのように
少年は店内から外の様子に目を凝らす

窓から見た外は
先ほどよりも酷い雨だった




「……また強くなってる……」




そう呟く少年

ふと、ある考えが浮かんだ




「黒崎サン、あたしと相合い傘して帰りますか?」




冗談半分でそう言うと
少年は意外と真面目に




「断る。…オレと一緒に帰ったら、浦原サンだって濡れるし、大変だろ?」

「………あれま、断られちゃいましたね」




やんわりと断られた

その少年の気遣いに、少しグッときたのは言うまでもない




「親父にでも迎えに来てもらうか」




そう呟く少年




「それなら、あたしが送りますよ」

「いや…だから親父に…」

「今日、診察日でしょ?仕事があるんだから、邪魔しちゃ駄目っスよ」




最後の一言が決め手になったらしい

少年は少し考えこむと、目線をこちらへと向け




「………じゃ、じゃあ……頼んでいい、か…?」




おずおずとそう言った

その言葉に、またもやグッとなったのは
お決まり事のようだ






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