novel

□君の涙なら美しいと思ったんだ
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(石田視点)



「あぁ…案外出るんだね、黒崎でも」

「え……、あ!」



彼は一瞬、驚いた顔をしてから、
自分の頬を流れるものに気付き
慌ててそれを拭った。



「…気付かなかったのか?」



驚いて聞いてみると
彼は小さく頷いた。
その頬にはまだ、涙が流れていた



「見せてくれてありがとう。面白いものが見れたよ」

「…あ、…あぁ……」



僕が礼を言ったのにも関わらず
彼は相変わらず頬を拭っていた



「……黒崎、どうかしたか?」

「いや……なんでも、ねぇ……ッ!」



俯いた彼の肩は
小さく震えていた



「…っ、」

「まさか……本当に泣いてる?」



そう問いかけた後
彼の顔を自分に向けさせる

彼の目は赤く充血していて
琥珀色の瞳には今にもあふれ出そうな程
涙が溜まっていた。



「違っ……なんか、止まら…なくて」

「………黒崎…」



彼は人前では一切泣いていない
最近では、中学校の頃から泣いていない
と茶渡くんから聞いた事がある



「ごめ…石田……おかし、だろ……?」

「いや…いいさ。泣きたい時は泣けばいい」



震える彼の肩に、そっと手を乗せる。
一瞬、彼は驚いたようにビクつくが
いつものように悪態は吐かなかった

肩に置いた手を、ゆっくりと頭に移動させても
彼は小言のひとつも言わなかった。

夕暮れと同じ色の髪を
壊れ物を扱うように撫でると
それが合図のように、彼は声をあげて泣き出した

その様子を
彼が泣き止む少しの間
僕はじっと黙って見ていた
今はただ、この脆く儚い存在が消えないよう
小さく抱き締める事しか出来なかった





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