天童寺CP
□くすぐったい
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鎌倉が大嫌いだった後輩から告白されて、もう一年が経とうとしていた。
その後輩・本田裕太とは、一つの約束をしていた。
好きだと言われた時、
『一年後、同じ事が言えたら付き合ってやるよ』
と答えたのは、もう随分昔の事のように思えた。
自分は大学生、裕太は高校生、当然会うことなどなかった訳で、その間鎌倉が感じていたのは後悔という念だった。
一年もあれば顔さえ忘れてしまいそうだった。
好きな相手ほど記憶は薄れる。
代わりに慕情が募っていった。
あの頃はまだ自分の気持ちに整理がついていなかった。
けれど今ならはっきりと言える。
『好きだ』と――
尤も、それを本人に伝えられるかどうかは別だが。
ただ鎌倉には不安があった。
一年という年月は、裕太の心を変えてしまってはいないだろうか。
もう他に大事な人間が出来ているのではないだろうか。
想い続けているのは自分だけではないのだろうか。
そんな負のイメージばかりが湧き上がって、自分を見失いそうな感覚に陥っていた。
大学も後期を迎えた頃、鎌倉のアパートにインターフォンの音が響いた。
部活で疲れて帰って来て、こんな時間に一体誰だと苛立っていた鎌倉だったが、扉を開いて驚きに目を見開いた。
そこに立っていたのは、鎌倉が今最も会いたいと思っていた人物だったからだ。
「お久しぶりです、鎌倉さん。」
ニコニコと笑みを浮かべながら挨拶をしてきた裕太に、鎌倉はしばらく何も言葉を発する事が出来なかった。
「入ってもいいですか?」
玄関に立ち尽くしていた鎌倉を押しのけて、了承もしていないのに部屋に上がりこむ裕太。
相変わらずの強引さに、ようやく鎌倉は苦笑を一つ零した。
「結構いい部屋に住んでるんすね。」
1Kの質素な部屋ではあるが、8畳はある部屋は、寮生活をしていた者からすれば十分に広さを感じられた。
だがここで鎌倉はしておかねばならない質問があった。
「何しに来た。」
その言葉に裕太は鎌倉を振り返る。
そして不意に真剣な表情になると口を開いた。
「一年前のこと、覚えてますよね?」
鎌倉はドキリとした。
最近はその事で悩む事が多かったのだ。
忘れるはずもない。
「ああ…」
小さく呟きながら頷く。
すると裕太は鎌倉へと近づくと言った。
「約束の一年が経ちました。ボクは今でも鎌倉さんが好きです。」
二度目の告白。
一度目の時とは違う感情が鎌倉を襲った。
あの時はどこか戸惑いを感じたが、今は違う。
心の底からその言葉が嬉しかった。
恐らくそれが顔に出てしまったのだろう。
裕太はフッと笑みを浮かべた。
「鎌倉さんもボクを好きでいてくれてるんすね。じゃあ、付き合ってくれるっすよね?」
それは最早問いではなく、確信を持った言葉だった。
鎌倉もここで誤魔化すほど野暮ではない。
「ああ。約束、だしな。」
照れ隠しに言葉を付け足して、裕太へと笑みを向けた。
それを受けて裕太は鎌倉を抱きしめる。
「よかった!」
嬉しそうに放たれた言葉がこそばゆかった。
喜ぶべきは自分なのだろうと思っていた鎌倉に、待てを知らない裕太は遠慮なく唇を合わせてきた。
さすがに行き成りこれは無いと思った鎌倉は裕太を押しのけたが、
「もう恋人なんだからいいじゃないっすか。」
という言葉に結局押し切られてしまった。
このままでは何をされるか分かったものではない鎌倉は、まずは教育が必要だと実感したのであった。
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相互記念にじはんき様に捧げます!
こんなので満足して頂けるか心配ですが(>_<)
一応「じれったい」の続きだったりしますが、短編でも読めるような感じに書いてみました。
いつかデキちゃった話を書いてみたかったので、リク頂いたのをいい事にやっちゃいました;;
じはんきさんのみお持ち帰り自由です!
ありがとうございました!