庭球部屋

□苦悩
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※2004.02.29初出、修正再出作品




 運命の人は、必ずどこかにいるもの。

出会えるか出会えないかはその人次第。

けれど、出会えたからといって必ずしも幸せとは限らない。

それは、相手を想って悩んだり、会えない時間を恨んだり、様々な形で苦痛を伴う。



 夏の大会以来、幸村はボーっとする事が多くなっていた。

ほとんどの人間が気づかなかったが、幸村をよく知る人間には、それはひどく不自然に見えた。

「体調でも悪いのか?」

そう聞いてきたのは真田だった。

彼は幸村の唯一の理解者。

けれど今の幸村の思いは、彼には理解出来ないだろう。

「ちょっと考え事してただけだよ。」

苦笑と共にそう返して、幸村はテニスコートに目をやった。

今は部活の最中。

いつもならテニスの事しか考えていない幸村だったが、日毎に大きくなっていくある想いに、今はテニスに集中出来ずにいた。

「考え事をするのは結構だが、注意力散漫ではそのうち怪我をするぞ。」

そんな忠告も、今の幸村には届いていない様だった。

真田は諦めて練習に戻る事にする。

その真田の背に向かって幸村が言う。

「君が羨ましい。」

突然の言葉に、真田は幸村を振り返った。

「何がだ?」

目を細め、少し馬鹿にした様な表情を浮かべる幸村。

真田は不快そうに眉を寄せた。

そこへ思わぬ言葉が投げられる。

「よく冷静でいられるな。真田、手塚の事が好きなんだろう?」

真田は思わず目を見開いた。

「ああ、そうか。自覚してないのか…」

クスリと笑って幸村が言った。

その様子に不快感を募らせた真田は、幸村を睨んでみる。

しかしそんな事で怖気づく幸村ではない。

もちろん真田もそれを心得ている。

「幸村、お前は何を言いたいんだ?」

ため息混じりに問われ、幸村は自分に対して嘲笑してみる。

「これでは唯のやつ当たりだな…すまない…」

そう告げて、幸村は俯いてしまった。

真田は訳が分からずそれを聞こうと口を開いたが、あまりに辛そうな顔をする幸村に、それ以上言葉をかけられずにいた。


 その頃、青学でも同じ様なやりとりがされていた。

「不二、やる気がないならもう帰れ。」

ぼんやりと、人事の様に練習を眺めていた不二に、呆れた声で手塚が言った。

不二はゆっくりと手塚に視線をやる。

「別に、やる気がない訳じゃないんだけどね。」

苦笑する不二に、手塚はため息をついてみせる。

「なら少しは練習に参加したらどうだ。」

そう言われて、不二は再び手塚から視線を外した。

「手塚は、よく平然としていられるよね。」

不二が何を言いたいのか分からず、手塚は眉間に皺を寄せる。

「羨ましいな、鈍感な人って…」

その言葉に、手塚は怒った様な表情を返した。

「それは俺を馬鹿にしてるのか?」

不二はクスリと笑う。

「違うよ。そういう意味で言ったんじゃないんだ。ごめん…」

素直に謝りながら、どこか寂しそうな表情を浮かべた不二に、手塚はそれ以上何も言わなかった。


 その数分後、違う場所で、二人の人物が同時に同じ言葉を呟いた。

『どうして見つけてしまったんだろう…』

幸村と不二が呟いた、独り言だった。

同じ瞬間、同じ言葉を口にした人間がいた事を、二人とも知る由はなかった。



 それまで恋をした事がなかった幸村と不二。

周りの恋愛話を聞く限りでは、恋愛は楽しいものだと思っていた。

けれど実際は、とても辛い、とても痛いものだった。

そう感じてしまう程、二人は年不相応な感性を持っていた。

自分が周囲の人間より大人の感覚を持っている事は知っていたが、今はそれが恨めしかった。

もっと子供でありたかった。

そうすれば、何のためらいもなく、思い悩む事もなく、ただ恋愛を楽しめただろう。

けれど、二人は見つけてしまった。

自分の心を捉えて離さない、唯一の相手を――

せめて同じ学校なら、苦しみも半分で済んだだろうなどと、どうにもならない事を考えてみたりもした。

会いたいと、強く願うようになってしまった。

そしてその願いが二人を動かす。

まだそこに存在していただけの運命の歯車が、音を立てて噛み合っていく。

それは、寒さに身を震わす、そんな感覚に似ていた。






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不二の4年に一度の誕生日にサイトを立ち上げ、約1ヶ月で更新ストップしたサイトで書いた処女作。
幸不二にハマって初めて書き上げた作品のようです。
結構気に入ってしまったので、修正して再掲載させてもらいました。
今となっては「幸村ってこんな殊勝なキャラか?」なんて思ったりするのですが、センチメンタルな二人に何故か魅力を感じます。
それでは、お読み頂きありがとうございました!

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