庭球部屋
□鎖
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※2001年初出、修正再出作品
一年前から始まった秘密の恋。
僕は自分と同じ価値感を持つ彼に出会えた事を感謝している。
だけど、僕たちは決して本心をさらさない。
それがルール。
「俺の前に他の男同伴で姿を見せるなんて、随分となめた事をする様になったな。」
僕の大好きな彼が言葉を紡ぎ、そして僕にキスをした。
「手塚には恋人がいるって知ってて言ってるの?」
彼は小さく笑う。
「あのチビか…あいつも趣味が悪いな。目の前にこんな美人がいるってのによ。」
彼の手が髪に触れる。
優しい感触。
「景吾、それを惚れた欲目って言うんだよ。」
彼に想われる事だけが僕の喜び。
だけど、決して口にはしない。
「違うな。あいつにはお前をものにするだけの器がない。お前には俺しかいないんだ。」
僕はため息混じりに笑うよりなかった。
「自信過剰すぎない?僕はいつだって君から逃げ出せるんだよ?」
一つ嘘をついた。
もう彼には分かっている。
「自分を繋ぎ止める鎖を持った人間を探していたお前が、どうして逃げられる?俺は常にお前以上の物を持ってるんだぜ?」
確かにそうだ。
英才教育を受けた秀才、そして金も地位も、すでに権力さえ握っている彼。
僕にはないもの。
だけど好きになったのはそこじゃない。
彼の、生まれながらの支配力。
僕を縛っておける唯一の力。
それが欲しくて彼にこの身を委ねた。
「君は僕を理解してる?」
一年たって僕たちは成長したのだろうか?
「お前が望むなら。」
言葉の意味が分からず、僕は顔を歪めて彼を見た。
「お前が俺に心を許すなら、全て受け入れてやる。これからの俺たちの関係はお前次第だ、周助――」
支配したがる彼が僕に答えを求める。
何故だろう?
ああそうか。
いつか言っていた。
『自分の思い通りにならない物なんざ必要ねぇ』
彼は僕を見極めているのだ。
僕が、側に置いておくのに相応しいかどうか。
試されているのだ。
ここで拒否すれば、多分彼との関係は終わり。
決められたルールも今は無意味。
本心を語れなければ、そこでゲームオーバーだ。
「景吾に、僕の全てをあげる。」
だから僕を君の元に繋いでおいて。
「その言葉、忘れるな。お前が望む限り、俺はお前を愛し続けてやる。だが、一度つけた鎖は外れないって事も覚えておけ。」
自信たっぷりの表情の彼に、僕はゆっくりと寄り掛かる。
いつもより力強い腕が僕を抱き締めてくれた。
逃げられなくていい。
この腕から伝わる想いが、いつまでも変わらずいてくれるなら。
そしてその支配力が、いつまでも衰えないのなら――
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私的思い入れの強い作品の為、一部修正の上、改めて掲載。
当時は跡部のバックグラウンドとか明かされてなかったと思うので、我ながら鋭い切り口だなと思いつつ、しかし初登場のあの態度からするとまぁそうなりますよね(笑)
今からすると不二が乙女過ぎるなと思いつつ、跡部に対してはそれもまた良いんじゃないかと。
恐らく跡不二はこういう関係性での展開が多くなると思いますが、
またお付き合い頂ければ幸いです!
ありがとうございました!