庭球部屋

□恋愛聖書
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 「青学の不二と付き合うとる?!」

謙也は驚きのあまり叫んでしまう。

「お前、騙されとるんとちゃうか?」

不二と言えば立海のペテン師を手玉に取る程の男だ。

全国大会で白石が不二に興味を持った事は気付いていたが、まさかそこまでの感情を抱いていたとは思ってもみなかった。

驚く謙也に対し、白石はごく自然な笑みを返す。

「別に騙されとっても構へん。とりあえずこうやって触れ回っといたら、嘘でも現実になるやろ?」

馬鹿らしいと謙也は頭を抱えた。

「テニスの聖書も、色恋には素人っちゅーわけか。」

嬉しそうな顔で不二へとメールをする白石をチラリと見やりながら、こんな事で一喜一憂していては己が身を滅ぼすのではないのかと危惧する。

が、いざテニスとなればうって変わってまさしく『聖書』と呼ばれるに相応しいプレイを見せる白石。

よくそれ程まで自身をコントロール出来るものだと感心する。

「謙也、テニスは理屈でどうとでも説明出来るけどな、恋愛っちゅうもんは説明がつかへんもんや。お前も本気で恋したらいつか解るんちゃうか?」

“完全に色ボケしとるわ…”

そう馬鹿にしていた謙也だったが、不二と付き合い始めてからの白石の成長には目を瞠るものがあった。

何が白石をそうさせているのか理解不能だった。







 「久しぶりやな、不二。」

その日、白石は東京へと足を運んでいた。

「じゃあ早速やる?」

不二の言葉に白石は口元に笑みを刻んで、一つ頷いた。

そのまま二人はあるテニスコートへと足を運んでいた。

たまの逢瀬。

その都度二人は試合を重ねていた。

白石の成長の秘密はそこにあった。

同じく成長著しい不二に対し、少しでも惨めなプレイをしようものならこの関係が終わってしまう気がして、嫌でも必死にならざるを得なかった。

認められる為に必要なのは絶対的な強さ。

白石はそう考えていた。



 試合を終えた後、今回の勝利者・不二がふと尋ねた。

「ねぇ、何か毎回動きが固くなってない?スランプにでも陥ってるの?」

思わぬ指摘に白石は目を見開いた。

そんなはずはなかった。

学校では誰もが好調だと褒め、自分でもそう思っていた。

しかし不二は違和感を抱いていた。

「何、考えてるの?」

問われてみて、白石は自覚した。

そして苦笑する。

「お前に負けたら見捨てられる気がして、気付かへんうちに自分のプレイに徹する事が出来へんようになっとったみたいやな…」

悪循環だと気付いて自嘲する。

そんな白石に不二はゆっくりと近づくと、落ち込んだように視線を落していた白石に不意打ちでキスをして見せる。

ほんの一瞬触れ合った唇。

そのまま唇が触れるか触れないかの距離で不二は言葉を紡いだ。

「僕も甘くみられたものだね。すぐに断ち切れる相手に時間を割くほど、暇じゃないんだけど。」

白石がハッと目を見開くと、間近で不二が綺麗な笑みを見せた。

嘘偽りのない笑み。

ある意味弄ばれていると言ってもいいのだろうが、歓喜に値する遊ばれ方だ。

白石は目の前にある愛おしい者の顔を引き寄せると、今度は自分から唇を重ねた。

知らないうちに心の奥底に溜まったわだかまりが消えて行く。

“ほんまに底が知れんわ。”

日毎大きくなる不二への愛情は、手に負えぬほどに大きくなっていく。

これからも手玉に取られるのだろうけれど、まっさらな恋愛のバイブルには、それも必要な通過儀礼なのかもしれない。

不二への想いを改めて思い知らされた白石だった。





****************
今更ながら、白石は不二の事を何て呼ぶんでしょう?
36巻では「不二」と「不二クン」とありましたけど、私的にはクン付けは他人行儀な気がして何となく避けてるんですが;;
とりあえずその後の巻を読破するまでは「不二」呼びで行きたいと思います!
や、クン付けで呼んでたとしても変えない可能性99.9%ですけどね(笑)
ではでは、お付き合い頂きありがとうございました!

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