庭球部屋
□その裏を確かめる方法
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全国大会が幕を閉じた後、リョーマは不二を呼び出して言った。
「今日改めて気付いたんすけど、俺、不二先輩のことが好きです。」
「僕も好きだよ?」
そうは聞こえなくともリョーマなりに本気の告白だったのだが、冗談のような言葉を返されてリョーマはムッと表情を歪めた。
「それ、どういう意味で言ってんすか?」
不二に揶揄されている気がしてならなかったリョーマがそう問えば、不二はニコリと笑みを見せた。
「君と同じ意味で言ったつもりだけど?」
もしそれが真実だとして、軽すぎはしないかとリョーマは不満を抱く。
どうにも不二の考えは読めない。
本気か冗談かを悟らせない表情。
真実を確かめる方法があるとすればこれしかない。
リョーマは不二へと近づくと、両手でその顔を引き寄せて唇を重ねた。
それは拒絶される事なく自然に受け入れられ、少しは実感を得ることが出来た。
だが引っ掛かる部分もある。
「先輩って、部長の事が好きなのかと思ってた…」
その言葉に不二は苦笑する。
「どうして?」
理由などきっと自覚しているであろうに意地悪く問いを投げる不二に若干苛立ちを覚えた。
「今日の試合、プレイしてる時も終わった直後も、部長の事しか見てなかったじゃないっすか。」
記憶を失っていた時の記憶はリョーマの中に残っていた。
記憶がなくとも何故か不二が手塚に向けた想いに感情を揺さぶられた。
あの時は気付かなかったが、今考えてみればそれは嫉妬のような感覚。
思い出して顔を歪めたリョーマに対し、不二はフッと笑った。
「記憶がなかった時の事も覚えてるんだ?でもその代わり、君は一つ忘れてる。」
何の事かとリョーマは益々顔を歪めた。
「準決勝が終わった後に僕に言った事、覚えてないんだろう?」
当然身に覚えのないリョーマは、驚愕の表情を見せた。
何を言ったのか、記憶の糸を手繰り寄せてみるが全く思い出せない。
考え込むリョーマに、不二は仕方ないとばかりに何があったのか話し始める。
そしてリョーマが言った言葉も――
『もし俺が決勝戦で勝ったら、俺のものになってよ。』
つまり宣戦布告を果たしていたのだ。
何故それを覚えていないのかは謎でしかないのだが、それならそれで構わないと、リョーマはいつもの自意識過剰な表情を見せながら言った。
「じゃあ先輩はもう俺のもの、って事っすよね?」
「まぁ、そういう事になるかな?」
こちらも余裕綽々といった様子で返して、互いに視線を絡ませる。
「俺、何日か後にアメリカ行くんすけど、それでも俺のもので居てくれます?」
突然の暴露だったが、不二は微塵も動揺する事はなかった。
「君が望むなら、ね。」
それを受けて、リョーマは不敵な笑みを浮かべた。
「どんなに離れてても、逃がさないっすからね!」
有言実行なリョーマはきっとそれを実現させるのだろう。
そう思いながら不二はただ笑顔を見せるだけだった。
本当は準決勝後の話は不二のでっち上げ。
どちらかと言えば不二の方が先にリョーマに堕ちていたのだ。
だから不器用ながらも告白を口にされた事には歓喜を覚えた。
素知らぬ顔をしたのは、まだ本物かどうか見えないからだった。
結局、リョーマも不二も互いの気持ちを読みきれずに居ただけ。
やっかいな人間を好きになってしまったものだと互いに思い合うようになるのも、もう時間の問題であった。
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仁王vs不二の試合後、リョーマが不二の名を呟いた事に非常に萌えまして、勢いで書いてみました!
不二の興味は手塚よりリョーマへの方が絶対強いですよね?
不二を触発したのはリョーマと言っても過言ではないと思いますし…どうでしょう?それでは、お読み下さりありがとうございました!