天童寺CP
□言い出せなかった想い
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ディフェンスに自信がついて来た頃から、龍之介は彩からよく1on1に付き合って欲しいと頼まれるようになった。
お互いレギュラーを取る事に必死で、それを機に練習が終わってから共に自主練をするようになっていた。
そのせいだろうか、二人は互いに互いを一番近しい相手に感じるようになっていった。
もしもポジションが同じならそんな感覚を抱くことは決してなかっただろう。
だが彩はこの所、その感覚が別のものに変化している事に気づいた。
一度気付いてしまうと、どんどん側に居る事が苦痛になってきて、気づけば日課のようになっていた龍之介との1on1を避けるようになっていた。
それに龍之介が不信感を覚えない訳もなかった。
しかし何も言わなかった。
いや、言えなかった。
この時はまだ――
インターハイが終わり、自分達の代が幕を閉じたと同時に、三年生たちはある種の緊張感から解放された。
そして龍之介は別のものからも解放された気分だった。
これでようやく言えると思った。
ずっと隠してきた想いを。
龍之介は一つの覚悟を決めて、彩と沢登の部屋の前に立っていた。
扉をノックすると、沢登が顔を出した。
「彩、いるか?」
「いや、さっき出て行ったけど、後でそっちに行くように伝えようか?」
出端をくじかれた気分の龍之介はそれを断ると、自分で彩を探すことにした。
寮内には見当たらず、それならばと龍之介は体育館に足を伸ばした。
だが電気はついておらず、扉も閉まっていた。
そこでふと龍之介は思い出したように足を踏み出した。
まだ取り壊されずに残っている旧体育館。
見れば窓から光がもれていた。
龍之介がそっと扉を開けて中をのぞくと、そこに彩の姿があった。
ここは二人にとって思い出の場所だった。
新しい体育館が出来た後も、よくここで二人で練習をした。
レギュラーを取る前、彩は他人に必死になっている自分を見られるのが嫌で、いつもこの場所を使っていたのだ。
それを知っていた龍之介は、後を追ってよくここへ来ていた。
他の人間が来ると嫌な顔をするのに自分には何も言わない事が、特別扱いされているようで龍之介はとても嬉しかった。
彩に抱く感情が変わっていくのを感じたのは、そんな頃からだった。
「彩。」
龍之介が声をかけると、彩は驚いたようにバッとこちらを振り向いた。
龍之介は彩へと近づくと口を開いた。
「好きだよ、彩。」
何の前置きもない突然の告白に、彩は目を見開いた。
「彩に余計な事を考えさせたくなくて、インハイが終わるまで待ってたんだ。」
今度はそんな前置きを口にして、改めて龍之介は言った。
「お前の事がずっと好きだった。」
真っ直ぐに見つめられて恥かしくなった彩は、思わず目を逸らした。
どう返事を返せばいいのか分からなかった。
答えはとうに決まっているのに、それを口にする事が出来なかった。
そんな彩の性格を理解している龍之介は、
「もし彩が同じ気持ちでいてくれてるなら、逃げないでくれ。」
と言うなり、彩を抱きしめた。
彩は微動だにしなかった。
もちろん龍之介はそうなる事を予測していた。
分かりやすい態度で今までその気持ちを示してくれていたのだから。
「いつか彩が俺に好きだって言える時が来たら、その時はちゃんと言葉で聞かせてくれ。」
未来に期待を込めて、龍之介は今は彩のこの精一杯の誠意で妥協する事にした。
それだけでも十分に幸せだから――
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彩はきっと好きだとか言えない子だと思うって訳で、何か書いてる自分が恥かしくなるようなアホな作品となってしまいました…
この二人は何かラブラブ〜な感じが似合うなと改めて思いました。
それでは、お読み頂きありがとうございました!