天童寺CP

□素直になったら
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 部活が終わった後、鎌倉は沢登に自室に来るよう呼ばれた。

寮に帰って風呂に入ってさっぱりした所で、鎌倉は沢登の部屋の扉を叩いた。

「あれ?彩は?」

沢登の同室者の姿が見えない事を不可解に感じた鎌倉だったが、

「龍之介の部屋に行ったから、今日は戻って来ないよ。」

という一言で納得する。

彩と龍之介が付き合っているという事は、バスケ部三年の間では周知の事実だ。

尤も、この日は沢登が自分の都合で無理矢理行かせたのだが、鎌倉がそれを知る由もない。

「で、話って何だよ?」

問いながら鎌倉は適当に床に腰を下ろした。

本当なら椅子にでも座りたい所なのだが、彩は自分のものに触られるのを異常に嫌う。

一度彼の椅子に座った時など、射殺されるかという程きつく睨みつけられた。

しかも見ていない所で使っても何故か彩には分かるらしく、以来彩のものには触らないように気をつけていたりする。

潔癖症かとツッコミたくもなるのだが、龍之介だけは許容してしまうものだから、鎌倉は愛の力は偉大だなどと別のツッコミを入れたくなる。

と、所在無さ気に部屋を見渡していた鎌倉だったが、隣に沢登が座ったのを機にそちらに意識を向けた。

「話っていうより、ちょっとはっきりしておきたい事があってさ。」

切り出された一言に鎌倉の視線が沢登へと移動する。

そこで嫌に真剣な顔をした沢登と目が合って、鎌倉は少し動揺した。

その目が訴えてくるものが何なのか、もう随分と前から別の人物によって思い知らされていたからだ。

僅かに身を引いた鎌倉だったが、沢登の目は彼を捉えたまま、今にも逃げ出しそうになっていた鎌倉の肩に手をかけると、そのまま床へと押し倒した。

冗談じゃない。

そう思った鎌倉だったが、さして体格の変わらない沢登から逃れる事が出来ず、何より威圧的な視線の前にさしたる抵抗も出来ずにいた。



 その頃、二年生のフロアで本田裕太はすれ違い様に同級生の世間話を耳にしていた。

「部活上がりに鎌倉さん、沢登さんに呼び出されてたけど、何かしたのかな?」

「今頃説教とかされてたりして?」

それを聞いて裕太は足を止めた。

「今の話ホント?」

突然話しかけられた同級生たちは驚きながらも「ああ」と首を縦に振った。

確認するなり裕太は走り出していた。

そしてそのまま沢登の部屋へ直行する。

先輩の部屋だというのもお構いなく、ノックも無しに勢い良く扉と開くと、裕太は目を見開いた。

今にも襲われそうになっている鎌倉の姿を見て、裕太はカッと頭に血が昇るのを感じた。

無言で沢登を鎌倉から引き離すと、手を引いて鎌倉の体を起こしてやる。

何も言わずとも裕太の怒りが伝わってきて、鎌倉は気まずい気分になる。

裕太が自分を好きな事をよく分かっている。

分かっているし自分も裕太に惹かれているのだが、素直になれずに避けてきた。

だからこの状況が息苦しくてたまらなかった。

「聖人さん、どういうつもりですか?」

彼らしくない低い押し殺した声でそう問いながら、裕太は沢登を睨みつける。

そして今度はその視線を鎌倉に向けると言った。

「鎌倉さんがいつまでもはっきりしないから、この人が付け上がるんですよ。」

鎌倉は裕太の言葉と目にギクリとした。

己の心中を見透かされているようで、そして気持ちを口にする事を促されているようで――

もうこれ以上誤魔化し続ける訳にはいかないのだと悟った。

「俺は…裕太が、好きだ…」

小さく呟かれた言葉に、先程の怒りはどこへやら、裕太は満面の笑みを浮かべた。

「という訳ですので、聖人さん、鎌倉さんの事は諦めて下さい。」

牽制するように裕太がそう言うと、沢登もまた笑みを浮かべた。

「はいそうですかって、俺が簡単に引き下がると思うか?」

“え…?”

鎌倉は頭の中で疑問符を浮かべた。

「思いませんけど、鎌倉さんはもうボクのものなんで。」

よく見ると、二人の笑みからは何やら黒いオーラが浮かんで見えた。



 ようやく素直に自分の気持ちを告白した鎌倉であったが、当分二人の間で邪気に当てられる日々が続くのであった。





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ダークホース沢登第二弾!(第一弾は沢直参照)
という事で、最後はギャグ風味に締めてみました。
裕鎌で幸せに暮らしましたとさ、チャンチャン、では面白くなかったので(笑)
そんな訳で、読んで下さってありがとうございました!

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