天童寺CP

□身代り
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 その夜、彩は俺の元を訪れた。

その夜とは、ノボリが和彦に会いに神奈川へ行った日だ。

ノボリと彩の関係は知っている。

互いに痛いほど想い合っている。

けれど彩は勘違いしている。

自分が和彦の代わりだと。

本当はそうじゃない。

確かに和彦もノボリにとっては特別だが、彩はもっと特別な存在だ。

俺はノボリが1年の頃から彩に惹かれていた事を知っていた。

俺もその頃からずっと彩が好きだった。

けれど彩が選んだのはノボリだった。

2年の2学期の中頃、ノボリが告白して二人は付き合うようになった。

先を越されたと思った。

だが彩もその随分と前からノボリを気にしていたから、自分に可能性がない事は分かっていた。

けれど諦められなかった。

彩と一番仲が良かったのは自分で、彩が頼ってくるのは自分で、そんな彩の信頼を裏切りたくなくて本当の想いを隠してきた。

ノボリに恋人という地位を奪われた時はショックでたまらなかった。

ただ救いだったのは、彩が相変わらず自分を頼って甘えてくれる事だった。

例えそれがどんな形でも――





 龍之介は彩の勘違いを利用していた。

彩は時々和彦を思う沢登を見ては傷付くらしく、よく龍之介の元を訪れていた。

初めて暗い顔をする彩を抱きしめた時に抵抗されなかった事を気に、龍之介は沢登のいない時にはその代わりのような行為をするようになった。

今もまた、龍之介は彩を抱いていた。

重なる体、縋りついてくる手・・・全てが愛おしく、全てが残酷に思えた。

何より龍之介の心を乱すのは、時折もれる彩の無意識の言葉。

「ノボリ…」

意識が薄れてくると必ず他の男の、自分の想う男の名を呟く彩。

“ああ、五月蝿い。”

龍之介は鬱陶しげに顔を歪めると、その唇を塞いでしまう。

せめて自分といる時だけでも他の男の事など忘れて欲しい。

いや、このまま自分のものにしてしまえればどれ程いいか。

だが彩が自分を哀川の代わりだと思っているように、龍之介もまた彩にとっては沢登の代役でしかない。

それも一時の。

悔しくて仕方なかった。

何故一番近くにいた自分ではなく沢登を選んだのか。

龍之介は彩を責めたくなる時もあった。

そして自分から彩を奪った沢登が憎くて仕方ないこともあった。

けれど沢登に惹かれる気持ちが分からなくもない。

実際この天童寺で自分が生き残ってこれたのは沢登のお陰だ。

本来なら自分の事で精一杯だろうに他人の事を考え、お膳立てする優しさ。

何より人を惹き付けるオーラが沢登にはある。

だから余計に悔しいのだが、今更自分に出来る事は何もない。

龍之介はたまのほんの一時に縋るしかなかった。

「彩・・・彩っ!」

いつも想いを込めて名を呼ぶ度、自分がどれほど彩を好きなのか思い知らされる。

この時間が永遠に続けばいい。

叶わぬ願いを胸に抱きながら、この想いが少しでも彩に伝染すればと思いながら、龍之介はその日も夢中で彩をかき抱いた。

この先決して友達に戻ることも、恋人になれないことも自覚しながら――





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何か突然思いついたので勢いで書いてみました。
本当はですね、沢彩で龍之介にしか甘えない彩を書きたいって話をしてたんですけど、完全に話の趣旨が変わってしまいました…
こんな痛い彩は嫌だー!!って、書いたのお前だろ!
という訳で、こんな暗い話を読んで下さってありがとうございました!

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