瑞穂CP
□Lovesickness
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インターハイが終わってから、石井は唐突に気がついた。
自分が恋をしている事に――
夏休みが終わり、新学期が始まって間もなくの事だった。
石井家は前代未聞の出来事に遭遇していた。
いつも馬鹿みたいに大食らいの石井家長男の食が、日に日に細くなっていったのだ。
初めはバスケ部を引退して気が抜けたのだろうと気にしていなかったのだが、食だけではなく持ち前の明るさまで消えていく事に、さすがに心配になった。
親友の土橋が聞いても理由を話さない。
それならばと、土橋は藤原に石井の件を託す事にした。
何となく彼になら何かを打ち明けるかもしれないと土橋は直感した。
そしてその直感は見事的中し、石井は藤原の前でその重い口を開いた。
「拓はさ、何がきっかけで秋吉と付き合い出したんだ?」
第一声に、藤原はなるほどとフッと笑みをこぼした。
「ついに好きな奴が出来たって訳か。」
石井は黙って俯いた。
「俺達の場合、別にきっかけって程のもんはなしに気づいたらって感じだったけどよ、好きなら好きだって告っちまえばいいんじゃないのか?」
尤もな答えだったが、石井の場合は勝手が違った。
「駄目なんだよ。んな事言ったら、一生口聞いてもらえなくなるかもしれねぇ…」
「は?何だよそれ。」
意味が分からないとばかりに藤原は首を傾げた。
「あー、くそっ!」
一つ叫んで石井は頭をガシガシかくと、
「やっぱもう耐えらんねぇ!」
と言って、顔を上げて藤原と目を合わせた。
「男なんだよ。俺が惚れたのは。」
もしかすると軽蔑されるかもしれないとも思ったが、藤原を信じて真実を打ち明けた。
すると――
「三浦か?」
思わぬ言葉が返って来て、石井は驚きのあまり目を見開いた。
藤原はククっと笑うと更に言葉を続ける。
「いつ気付くのかと思ってたんだが、ようやく自覚したか。」
全てお見通しでしたといった口調の藤原に、石井は苛立ちと恥かしさから顔を真っ赤にする。
「あれだけ見せ付けておいて今更か。トーヤでさえ気付いてるぜ?」
「なっ?!!」
石井は恥かしさを通り越して、もうただただ口を鯉のようにパクパクさせる事しか出来なかった。
その反応が面白くて必死で笑いをこらえる藤原。
からかわれている様でいよいよ腹が立ってきて、
「笑いたきゃ笑えよ!どうせ俺はバスケとゲーム以外頭の回らねぇ鈍感だよ!」
と叫んだ。
藤原は何とか笑いを抑えると、落ち着けと石井を諌める。
「俺がここで三浦の気持ちを代弁するのは簡単だけどな、自分の気持ちは自分でちゃんと伝えろ。お前が考えるような最悪な事態にはならねぇって保障するからよ。」
本当に何もかも見通しているらしい藤原の言葉に、石井は腹を括った。
翌日、石井は三浦の住むマンションの前に立っていた。
だが中々踏ん切りがつかずマンションの前を行ったり来たりしていると、不意に携帯が鳴った。
見れば三浦からの着信だった。
恐る恐る電話に出ると、
「さっきから何やってるの?どう見ても不審者にしか見えないんだけど。」
と、どこか不機嫌そうな声で言われて、石井は三浦の住んでいる階を見上げた。
そこに窓から顔を覗かせた三浦の姿を発見して、石井はギクリと体を強張らせた。
「用があるなら上がってきなよ。」
都合の良い誘いの言葉だったが、石井はその場から動けなかった。
不安、緊張…
色々な思いが交錯して、体がいう事をきかなかった。
そこで、本当は不本意ではあったが、三浦を見上げながら携帯という無機質な道具を通して言った。
「お前に一言言いたくて来たんだけど、俺、思ったよりヘタレみたいだからよ、ここで言わせてもらう。」
三浦はそんな石井と視線を合わせて黙って聞いていた。
「お前が好きだ。」
はっきりと告げられた一言に、三浦は極上の笑みを浮かべた。
そして、
「ボクも君が好きだよ。」
と、躊躇なく返答する。
これに赤面しながら、石井は嬉しくてたまらないといった様子で笑顔を見せた。
「本当は『今更?』って言いたい所だけど、君の勇気に免じて許してあげるよ。」
チクリと痛い所をつかれたが、受け入れてもらえてよかったと安堵する。
もうずっと以前から両思いだっただったのだと石井が知ることになるのは、まだもう少し先の話。
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瑞穂を語る上で石蘭は外せないと思う。
忘れた頃にやってくる石蘭のターン。
とりあえず彼らは確執後、ACTUに入ってからは初っ端から魅せてくれました★
HR後の部活のお迎えが、藤原から石井に代わったのね〜っていうデジャブ…デジャブ…
藤蘭も好きなので色々と葛藤のある石蘭なんですが、また機会があれば書きたいなと思います!
ありがとうございました!