瑞穂CP

□Distress
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 榎本仁志は悩んでいた。

そしてイラついていた。

何に悩んでいるかというと、本人的には不本意ながら恋愛についてだった。

では何に苛立っているかというと、その悩みに気づいている勘だけは鋭いヘラヘラした一つ年上の先輩と、引退してからも推薦が決まったからと毎日部活に現れる二つ年上の脳天気な先輩にだ。

 まず一つ年上で現在バスケ部のキャプテンを任されている高階トウヤ。

「榎っち〜、今日も愛しの君に会えなくて欲求不満かぁ?あんま眉間に皺寄せてると、年食った時痕が残るぞ?」

こうやってほぼ毎日の様にからかわれる。

「俺の秘蔵本貸してやるから、たまには健全な男子高校生に戻ってみるのも悪くないと思うぞ?」

「万年発情期のあんたと一緒にしないで下さい。」

こういう手合はとりあえず適当にあしらって相手にしない事が得策だ。

 次に、三年生の脳天気な先輩こと石井努。

もしかするとトウヤよりもこちらの方がやっかいかもしれない。

二言目には「んで三浦がさ〜」と、榎本の想い人の名を口にする。

三年生達の絆の強さはよく分かっている。

だからそれが、例えば彼女がいる藤原辺りの言なら何とも思わない。

しかし石井は、本人は気づいていないだろうし、そこに恋愛感情が介在するかどうかは分からないが、相当三浦の事が好きだ。

当の三浦も石井の事を快く思っている。

それ故に嫉妬心が煽られる。

そして三浦の名が出る度にドキリとする自分に腹が立つ。

考えてみればもう1ヵ月以上彼の姿を見ていない。

教室のフロアも違えば、受験生である三浦とは帰宅時間も違う。

何より榎本自身も今はバスケに集中して、少しでもスキルを磨かねばならない。

まず三浦を超えなければ、彼を想う資格などないと思った。

だが上達を実感する程に三浦の存在感がより巨大な壁となって自分の行く手を遮る。

瞼の裏に焼きついた彼のプレイは、まだまだ自分の及ぶ所ではない。

日に日に募る歯痒さ。

それに気づいたトウヤがある時言った。

「お前、自分の中の三浦さんを美化し過ぎなんだって。」

珍しく先輩らしい一言だった。

確かにそうかもしれない。

だが榎本は美化されていく思い出を否定する事が出来なかった。



 そうして榎本が行き詰っていた或る日、恐らくお節介焼きのトウヤの根回しなのだろう、引退してから初めて三浦が体育館に顔を出した。

久しぶりに見る姿に、榎本は胸を締め付けられた。

そして三浦が見守る中、三年生も交えて5対5の試合が行われる事となった。

一度試合が始まると、榎本の胸中は至極穏やかなものだった。

集中して、今自分に出来る精一杯のプレイを見せた。

気づいた時には試合は終わっていた。

するとさっきまでの心境は嘘だったかのように緊張しながら三浦の方へと視線を向けた。

バチリと視線が絡む。

彼特有の色気漂う微笑をみとめて、榎本は思わず目をそらした。

そこへ三浦は自分から榎本へと近づいて口を開いた。

「腕上げたね、榎。もし今ポジション争ってたら危なかったかもね。」

その言葉に榎本の視線が再び三浦へと戻る。

「でもまだ俺は力不足って言いたいんですか?」

「まあね。」

クスリと笑顔で返された答えに榎本は満足感を覚えると同時に、この人には敵わないと思った。

ここで素直に己の実力を認められていたら腹立たしさを感じただろう。

だから完全には認めないという三浦の言葉は心地良かった。

自分の性格を心得てくれている事が嬉しくて、思わず僅かに頬が緩んだ。

しかし次の瞬間その表情は凍りついた。

「ちょっと惚れ直したよ。」

冗談なのか本気なのか分からなかったが、それでも顔を真っ赤にせずにはいられなかった。

そのままポカンと口を開けたまま固まって、トウヤにからかわれて我に返るまで、非常に情けない面をさらす事になった榎本であった。





**************
榎→蘭に見えますが、一応ちゃんと榎→←蘭だったりします。
惚れ“直す”というのは元々惚れてるって意味で。
何か回を重ねる事に三浦しか見えなくなっていく榎本を見ていると、自分の中で榎蘭は外せないカプになっていきました。
でも本編おいしい所で石蘭が出てくるので、石井は榎本にとって違う意味でライバルに違いないと思って、今回石井くんにご登場願いました。
私的には書いてて楽しかったです★
ありがとうございました!

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