明和CP

□雨下はらう君
1ページ/1ページ

 インターハイが終わり学校の寮へ戻って数日。

その日は激しい雨が降っていた。

台風のように強い風と共に降る雨は、窓にぶつかる音で室内の音を掻き消していた。



 寮の一室で、まだ夕方だというにも関わらず、麻上は頭から布団をかぶってベッドに突っ伏していた。

そこへコンコンと部屋をノックする音が聞こえてくる。

だが麻上は何も答えず相変わらず布団に包まっていた。

すると不意に扉が開かれる。

そんな事をするのは一人しかいない事を知っている麻上は、その行動を黙認した。

気配が近づいて来て、

「麻上…」

と、どこか力なく名を呼ばれた所で、麻上は僅かに布団から頭を出した。

そして相手の名を口にする。

「悟。」

長瀬はベッドの端へ腰を下ろすと、麻上の頭をそっと撫でた。

彼は泣いていた。

悪天候の為に、押し殺された彼の嗚咽は部屋の外へ漏れることはなかったが、長瀬は分かっていたから麻上の部屋へとやって来たのだ。

一見図太そうで、実際誰もがそう思っているのだが、本当は彼が誰よりも繊細だという事を知っているのは長瀬だけだった。

ここ数日、インターハイでの敗北を、自分の不甲斐無さを思い出して、悔しさから一人誰にも気づかれぬよう麻上は泣いていた。

長瀬はそんな麻上を支えたくて、毎日部屋に通っていた。

そして毎日同じ事を繰り返す。

布団の中に引っ張り込まれて、抱きしめられて、キスをされて――

いつもは自分を支えてくれる麻上に甘えられる事が嬉しくて、長瀬はつい毎日足を運んで、彼の好きなようにさせてしまうのだ。

「意外と女々しいよな、お前。」

麻上の腕の中で一つ悪態を吐いてみると、ムッとした表情が返ってくる。

だが事実なのだから反論出来るはずもなく、反抗の代わりに麻上はその唇を塞いでしまう。

黙って受け入れる長瀬。

互いに瞳を閉じることなくうっすらとお互いの目を見つめ合いながらキスを重ねる。

麻上はその優しい眼差しに心癒される。

長瀬の存在があって良かったと心の底から思う。

出会えた事さえ奇跡だと思うのに、男である自分を受け入れてくれた時にはどれ程自分が幸せな人間かと思ったか知れない。

本当は好きであるが故に弱い自分を見せたくなかったのだが、

『たまには俺にも甘えて欲しい。』

そう言われた時から歯止めが利かなくなった。

落ち込む度に甘えを見せると、そのうち長瀬は何も言わずとも気持ちを察してくれるようになった。

まるで贅沢な夢を延々と見ているようで、時々怖くなる。

もし他の人間に奪われたら、もし離れ離れになったら、と。

けれど長瀬の自分に向けられる瞳をみていると、そんな不安は消えて行く。

愛おしむような瞳。

自分もこんな目で長瀬を見ているのかと思うと気恥ずかしくなるが、自分がどれだけ彼を愛しているのかという事が伝わっているのならそれでいい。

長瀬を抱きしめながら、麻上はゆっくりと目を閉じた。



麻上の心に呼応するかのように、先程まで激しく降っていた雨はピタリと止み、空は穏やかな星空を描こうとしていた。






**************
相互記念という事で雪野碧様に捧げます。
雪野様のみお持ち帰りご自由にどうぞ!

本当は高校生だし「愛」という言葉はあまり使いたくなかったりするのですが、この二人の関係はもう愛ですよね?
愛以外の何物でもないですよね!
対天童寺戦では公衆の面前で見せ付けてくれちゃって★(←激しく誤解)
八神大先生の絵が上手すぎるので、普通にBL漫画見てる気分になってしまった大馬鹿者…
先生に謝れって感じです…
とりあえず、決勝戦を観にまた現れるのを楽しみにしてます!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ