明和CP
□好きだからこそ…
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「あれ?長瀬さん?」
買い物の為に外出していた希は、かつての先輩の姿を見つけて声をかけた。
「希!久しぶりだな!」
お互いに大人びた姿に面食らいながらも、昔と同じように笑顔で接する。
「こんな所で何してんすか?」
希の問いに長瀬は困ったような顔を見せた。
「いや、もうすぐ麻上の誕生日だろ?何かいいプレゼントないかと考えてたんだけど、これといっていい案が浮かばなくてな。」
苦笑する長瀬に、希はそんな事かとでも言いたげな顔で言った。
「別にプレゼントなんて必要ないと思いますけど?麻上さんは長瀬さんが居るだけで十分だと思ってるでしょうし。」
随分と大人な発言をする希に驚く長瀬。
こんな物言い、高校の頃の希からは想像もつかなかった。
希を変えた人物がいるとすれば唯一人。
長瀬はその男を思い出しながら訊いた。
「それって、体験談か?」
すると希はフッと優しい笑みを見せた。
こんな顔をする奴だったかと思いながら、希からこの笑みを引き出せる男の偉大さを思い知らされる。
「まあ、長瀬さんたちには参考にならないかも知れませんけど、一応れっきとした体験談です。」
「そうか…」
長瀬は何となく希たちの関係が羨ましく思えた。
高校の時から自分の誕生日には必ず何かをくれる麻上。
こちらが何も返さないと愛情を疑われるのではないかと思わずにはいられなかった。
習慣とは時に恐ろしいものだと思う。
確かに自分も麻上がいれば他に何もいらない。
けれど自分からこの習慣を絶つ事は至難の業だ。
好きだからこそ出来ない事もある。
どうしたらいいものかと考えながら、長瀬はふと希を見上げた。
「何ですか?」
問いかける様な目で見られて希が訊くと、長瀬は苦笑しながら言った。
「いや、お前ならどうするんだろうと思ってな。毎年プレゼントのやり取りしてて、今年は無しってなった時にさ。」
「そんなの簡単じゃないですか。負担かけたくないからまずは自分から止めるって言えばいいだけじゃないですか。」
まるで悩んでいるのが馬鹿だとでも言わんばかりにあっさりと返って来た答え。
しかもその答えは長瀬には思いも付かなかった、単純明快なものだった。
「なるほど。」
感心した声で呟いて、それは名案だとポンと一つ掌と拳を合わせた。
ちょうどその時だった。
「悟?それに希か?」
そう声を掛けてきたのは麻上だった。
それを見て希は、
「何か長瀬さん悩んでる事があるみたいなので、後は麻上さんにお任せします。俺もこれから用があるので。」
と言った。
すると思い出したように麻上は言った。
「そういえばさっき駅の方で如月を見かけたが、待ち合わせでもしてたのか?」
「え?」
麻上の言葉に狼狽する希。
もしもこの状況を見られていたとしたら、勘違いしやすい彩は機嫌を損ねているかもしれない。
そう思うと居ても立ってもいられず、
「じゃあ俺、これで失礼します!」
と告げて走り去って行った。
希の後姿を見送りながら麻上は苦笑する。
「相変わらず忙しない奴だな。」
ここで視線を長瀬へとやると改めて口を開く。
「で、お前は何を悩んでるって?」
余計な事を言ってくれたものだと希を恨みつつ、こうなっては正直に打ち明けるよりなかった。
「あのさ、今年のお前の誕生日プレゼント、用意出来なくてもいいか?」
不安げに問う長瀬に対し、麻上は平然とした顔で言った。
「ああ。というか、そんな事で悩んでたのか?」
うっと顔を歪ませる長瀬。
「だってお前は毎年くれるだろう?ただそれがお前の負担になってないか心配で、けど俺から言い出すのも気が引けて…でも一つ言える事は、俺にとってはお前が居てくれる事が一番のプレゼントだと思ってる。」
そんな長瀬の言葉に麻上はふと嫌な笑みを浮かべた。
「それ、希からの入れ知恵だろう?」
見透かされている。
長瀬は再び顔を歪めた。
「確かにそうだけど、一応俺の本心だからな?」
拗ねたように言った長瀬に麻上はフッと笑みを浮かべると言った。
「分かってるよ。」
その言葉に長瀬も笑みを見せると、麻上はふと何かを思いついたようで口元を歪めた。
「なぁ、プレゼントの代わりにしばらくプラトニックな関係でいるってのはどうだ?」
初めから勝手に自分を抱く側に回っていた長瀬。
抱かれる側の辛さというものを分かっていない彼に少しは反省をして欲しいと常々思っていた。
これはいい機会だと麻上は思ったのだが、
「今月中だけなら考えてもいいけど、それ以上は無理だ。」
とピシャリと言い返され、麻上はこんな時だけ強気な長瀬にため息をつくよりなかった。
「お前を前に我慢なんか出来る訳ないだろう?」
真剣な表情で返された恥かしい台詞に頭を抱える。
そう言われるのは悪い気はしないが、たまにバスケに差し支える事もあるのも事実で、仕方なく麻上は妥協を提案した。
「ならお前の誕生日には好きな事やらせてやるから、せめて冬は勘弁してくれ。今年はインカレの出場権逃したけど、来年はどうなるか分からないだろ?」
尤もな言い分プラス自分の誕生日の楽しみを考えて、長瀬はそれを受け入れる事にした。
「来年が楽しみだな。」
今度は長瀬が嫌な笑みを浮かべる番だった。
「とりあえず今年もケーキだけは用意するから。」
そう言った長瀬の顔はどこか楽しそうだった。
“悟が喜ぶならまあ仕方ないか。”
麻上はそんな事を考えてみたが、翌年の長瀬の誕生日には前言撤回する事になるとは、まだ考えもしていなかった。
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ハッピーバースディ麻上!
変に希が出張っててすみません…
でも長瀬はヘタレだと思ってるので誰か助言してくれる相手が欲しかった。
まさか後輩に意見を求めるなんて、結局うちの長瀬はヘタレから抜けられないようです(笑)
ていうかこれは麻上誕祝いなのか?と言いたくなる内容ですが、そこは広い心で見てやって下さい^^;
そして何気に希彩を入れてしまってすみませんでした(>_<)
それではありがとうございました!